84人が本棚に入れています
本棚に追加
アタシは両手を身体の後ろに持ってきて右手で左手の手首を掴んだ。それから男の子を見ながら後退していった。アタシと男の子の間に距離が出来る。
「そんなところにいたらホノカが飲めないだろう?」
アタシの後ろでブランの声がした。アタシに向けているような甘い声ではない、とても冷たい声に鳥肌が立って思わず振り返ろうとしたが、男の子が動いたのでやめた。また気がつかないうちに傷つけてしまいたくなかったからだ。
そしてアタシはまたゾッとした。
男の子は笑っていた。にっこりと、口角を上げて。ぶらんと肩から外れた腕をぶら下げて。
怖い。アタシは後退した。背中が鳥籠にあたった。
ビクッ
身体がビックリして跳ねた。両肩にブランの手が添えられた。振りほどこうと身体を揺らしたが、ブランの手は離れなかった。添えられているどころではない。これはアタシが逃げないように拘束している手だ。
男の子に目を合わせた。男の子は笑みを崩さず近づいてくる。
「こ、来ないで……」
聞こえているのかいないのか、男の子は近づくのをやめない。
もう、触れられるほど近くに。上から整った顔を近づけてくる。
アタシは咄嗟に顔を反らして膝を折った。少しでも男の子から逃げようとしてしゃがんだのだが、男の子も身を屈めてくる。ブランもアタシの身体の移動について手を動かしてくる。アタシはついに座ってしまった。もう逃げられない。
男の子がアタシの耳元に顔を近づける。温かい吐息が頬にかかる。アタシは目を瞑った。
嫌だ。やめて。近づかないで。
「ほら、ホノカ」
両頬に手を添えられ、むりやり男の子の方へ向けさせられる。目を開けると視界いっぱいに男の子の笑顔が広がっていた。
「飲んで」
ブランの左手がアタシの顎を掴む。そしてブランの右手が鳥籠に入って来て、男の子に伸ばされた。
途端、赤いものが飛んできた。
「え……?」
アタシは目の前の光景が信じられなくて一瞬茫然とした。
男の子の、首が、切れて……血が……!
「ひっ」
最初のコメントを投稿しよう!