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アタシは叫びそうになった口を押えた。するとぬるっとした感触がして、頭から血の気が引いていった。
自分の手を見る。
真っ赤に、濡れている。
濃い鉄の匂いがする。
「やっ」
男の子が前のめりに倒れて来る。
「ひゃぁっ」
アタシは後退しようとした。しかし、背中はすでに鳥籠にくっついている。下がることなどできず、逃げることなどできず、男の子がアタシに覆い被さってきた。胸の上に男の子の顔がある。男の子は動かない。腕はだらんと垂れている。首から赤い液体が流れ出ている。アタシの身体が赤く染まっていく。口元が、笑っている。
「やあっ!! なんで、どうしてこんなっ」
頭の中がパニックになった。心臓がバクバクと早鐘を打っている。
なにこれ。なにこれ。怖い。おかしい。気持ち悪い。吐きそう。どうしてこんなことになったの? どうしてこの男の子が死ななくちゃいけなかったの? おかしい。こんなのは間違っている。
今度は腹の底が熱くなってきて、冷えた身体を燃やしていった。
「飲まないの?」
素早く振り返ると不思議そうな顔をしたブランの顔があった。ブランはアタシをじっと見つめたまま、右手を唇へ持ってくる。ブランは真っ赤に染まった指を、濡れた音を響かせながら、どこか艶めかしく、舐めた。
「うん、やっぱり、僕は女の子の血の方が良いかな」
にっこり笑った。
おかしなくらい綺麗なその顔に寒気がした。同時に無性に苛立ちを感じた。
おかしい。おかしいおかしいおかしい。狂っている!
「ブラン!!」
アタシはブランを睨みつけた。こいつ、おかしい!
ブランはきょとんとした顔をしていた。そして彼が何かを言おうと口を開いたとき、部屋の扉が乱暴に開いた。
「ブランボリー様!」
部屋に入って来たのはアタシをこの場に案内したくりくりの金髪女吸血鬼のメイドさんだった。表情に焦りの色が見える。それだけで部屋の外で何かが起きたらしいことがすぐに分かった。
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