Red×King×Vampire

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 女吸血鬼のメイドさんは鳥籠の中の惨状に少しだけ表情を変えてごくりと唾を飲み下したようだったが、すぐに気を取り直して叫んだ。 「黄の王フェリックス様がお逃げになりました! そこの娘をお探しです。すでに我々では対処しきれません!」  背後でゆっくりとブランが立ち上がる気配があった。 「どうでも良さそうなことだったら断ろうと思ったけれど、それは僕が行かないとね。嫌だなぁ。せっかくホノカと楽しくお話ししていたのに」  楽しくなんてなかった! 下から睨みつけてやると、ブランはふふっと声を出して笑った。 「そんなに見つめなくてもすぐに帰ってくるよ。それでも飲んで待っていてね」  それだけ言うとブランは足早に部屋を出ていった。白い扉が閉められる。その間にアタシはあのメイドの吸血鬼がアタシのことを殺意のこもった目で睨んでいることに気づいた。今にも「殺してやる」と聞こえてきそうな顔だった。  あれは、たぶん、嫉妬の目だ。鈍感なアタシでもあんな目を向けられたらさすがに分かる。あのメイドさんはブランと一緒にいられるアタシに嫉妬しているんだ。たぶんこのお屋敷にいる人たちはみんなブランのことを愛している。みんな同じ目をしてアタシを睨んでくるから。そしてみんながブランのことを愛していなければブランがあんな性格に育つわけがないからだ。この、アタシの胸の中に横たわる男の子だって、ブランのことを愛していたんだろう。だから、最後まで笑顔だった。  胸が苦しくなってきた。きゅっとなって、お腹が震えて、喉の奥から何かが込み上げてきた。 「っつ、ご、ごめんね……」  アタシは男の子の後頭部に呟いた。男の子は動かない。アタシはこの子の声さえ聞けなかった。  目が熱くなってくる。瞬きをしたら涙が一粒零れたのが分かったけれど、二粒目は唇を噛んで耐えた。アタシは泣いてはいけない。アタシの所為でこの男の子は死んでしまったのだから。  アタシはふわふわの綿菓子を潰さないように持つような感覚で、細心の注意を払って男の子の身体を床に寝かせた。それから爪の先でサラサラの前髪を掻き上げ、指の腹でサテンを撫でるように優しく瞼を下げてあげた。 「……ごめんね」  もう一度謝る。もう、聞こえていないだろうけど。  また喉の奥が締めつけられるように痛くなって、アタシは両手で顔を覆った。しばらくそのまま身体を揺らして心臓がある程度落ち着くのを待ってから、アタシは頬を叩いた。
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