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「よし」
ここから逃げよう。こんなところにはいたくない。こんな、こんな悲しくて辛い思いはもうしたくないしさせたくない。アタシがしなくちゃいけないことは一刻も早くここから出てフェリックスさんたちと合流することだ。……ここでいつまででも悩んでなんていられない。とりあえず、アタシはこれ以上事態を悪くすることだけは避けなければならないのだ。
アタシは立ち上がり、男の子に背を向けて銀色の格子を両手で掴んだ。
「せーのっ!!」
自分で掛け声を出して力いっぱい鳥籠を両脇に引っ張った。必死に歯を食いしばる。結構強いぞこの鳥籠。出せる力の全てを使っているのになかなか動かない。ぬぬぬぬぬぬ……開けぇぇ!!
身体が熱くなってきたあたりでようやっと銀色の格子がぐにゃりと歪んだ。
「やった!」
アタシは思わず声に出して喜んだ。すごいぞアタシ!
歪んで出来た隙間に身体を横に入れて何とか脱出しようと試みる。が、お尻がつっかえた。あぁもうなんでこう、上手くいかないかな!?
「うぐぐぐぐぐ……わっ」
腕を突っ張って踏ん張っていると突然つるんと抜けて頭から床に激突した。痛くはなかったけれど、鼻が歪んでいないか気になったので触ってみた。大丈夫みたい。よし。
アタシは立ち上がり、鳥籠を回って白い部屋の扉の前まで来た。扉を押してちょっとだけ開けることに成功する。だんだん力の使い方が分かってきた。
顔だけ出して辺りを伺ったが、誰もいなかった。明るい蛍光灯が白くて無機質な廊下を照らしているだけで、何の影もない。たぶんあのメイドさんが焦ってやってきていたから、みんなそっちに気をとられているのだと思う。これはチャンスだ。逃げられるかもしれない。
部屋からそっと出た。扉を閉める時、動かない男の子の背中に胸が締め付けられたけど、迷わずアタシは扉を閉めた。アタシのすることは一つ。フェリックスさんたちとの合流だ。そう言い聞かせた。
アタシは床を蹴った。裸足なのでぺたぺたと音がする。
いくつかある扉は全部無視して真っ直ぐ廊下を走っていると、幸いにも階段に行きついた。なんとなく思っていたけれど、ここは地下だったらしい。窓がなく、通気口がだけがあったのでそんな気はしていた。
地上に出れば少なからず何人かの吸血鬼に遭遇するだろう。アタシはごくりと唾を飲み込み、警戒しながら階段を上っていった。
足音を立てないように注意してゆっくりゆっくり上っていくと地上が見えた。赤い絨毯がひかれている。この絨毯は見たことがある。ホールにひいてあった絨毯だ。
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