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見たことのある絨毯に少し嬉しくなっていると、メイド姿の女吸血鬼が二人横切っていった。ぎょっとして身を隠し、ドキドキしながら顔だけを突き出してみる。メイドさんたちは長く続いている広い廊下の真ん中あたりで左に曲がっていった。たぶん、あっちにフェリックスさんがいるんだ。アタシは身体を完全に階段から出して地上に立った。
「あれは!」
「あの小娘じゃない!!」
一秒も経たないうちに見つかってしまった。アタシ、こっそりとかそういうの向いてないみたいだ!
メイドさんたちが右側からこちらに向かって走ってくる。アタシはあたふたしながら左側を見たが、廊下は行き止まりだった。アタシの立っている場所は丸い空間になっていて、後ろには地下への階段。右は長くて広い廊下、左の突き当りには赤いバラの大きなステンドグラスがはめ込まれている。唯一逃げられそうな、きっとフェリックスさんがいると思われる右側の廊下からはメイドさんたちが走ってきている。それも猛スピードで。悠長に考えている時間は無かった。
「もー知らない!!」
アタシは左側に走った。そして。
バリーンッ
ステンドグラスに突っ込んだ。頭を庇って交差した腕でステンドグラスは見事に割れてくれ、アタシは凄まじい音と無数の綺麗なガラスの欠片と共に外に出た。勢い余って地面で前転する。
「逃げたわ!」
「外の者を集めましょう!」
メイドさんの声が聞こえ、アタシは慌てて立ち上がって地面を蹴った。裸足だとか服装が恥ずかしいだとかは考えていられなかった。いや、ちょっと考えた。その所為か身体が熱くなってきたけど、とにかく追ってくる気配から逃げるように、アタシは全速力で真っ暗闇を駆けた。月明かりだけでも十分に辺りを把握することが出来ることが不幸中の幸いといったところだろうか。
吸血鬼たちは脇から現れたり前から現れたりしたが、その度に走るルートを変えてなんとかかわした。そう無計画に走っていたからか、ついに目の前に重厚な造りの壁が現れ、右からも左からも後ろからも吸血鬼がやってきているという事態に陥ってしまった。
これはたぶん、お屋敷を囲んでいる塀だ!
気づいたけれど迂回することは出来ない。でも立ち止まることも出来ない。立ち止まったらアタシは捕まってしまう。
「自分を信じろ、アタシ!」
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