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そんな毎日が続いていたが、今日は少しお腹が空いたのでハンバーガー屋さんに寄って帰ろうということになった。付き合ってひと月、初めて登下校以外のデートである。僕は先に歩いてハンバーガー屋さんに入ろうとした。
「あれ」
沙織ちゃんが月明かりの下で横にそびえ立つ15階建てのマンションを見ながら驚いた声をだした。
「なに?どしたの?」
「今、人が」
「人?」
僕は怖くなった。沙織ちゃんが見ているマンションは自殺で有名なところだ。若い男の子たちが後を絶たないくらい飛び下りて死んでいるという。
「早く行こうよ」
僕は沙織ちゃんにおいでおいでをした。
ハンバーガー屋さんに逃げるように入るとお店の人が笑顔で出迎えてくれた。僕は店内に眩しく目を細める。明るい場所に入って何だかちょっと安心した。
「店内でお召しあがりですか?」
「はい」
沙織ちゃんの顔を見るとウンと頷いている。そして外の様子を気にして見ていた。僕は身体をブルッとさせた。だがここで怖がっていたら男としての面目がたたない。
「僕、ダブルチーズバーガーにしようかな。ポテトの付いたセットで」
僕がメニューを見ながら言うと沙織ちゃんは大きな目をもっと大きくした。
「そんなボリュームのあるもの食べたら夕ご飯が食べられないんじゃない?」
あれ、さっきまでの外への興味はもう薄れたのか。僕はクスっと笑いそうになった。
「大丈夫だよ。僕、けっこう毎日、量を食べるよ」
「そう、私はアップルパイ」
「それだけでいいの?」
僕はメニューを指さして言った。
「どれでも奢るから好きな物食べるといいよ」
沙織ちゃんは首を傾げた後、人差し指を顎にあてて
「じゃ、フュッシュバーガーにする」
と言った。僕はそれを注文すると、二人掛けの空いている席を見つけ、そこに学校のスポーツバッグを置いた。
「僕が食べるもの持って行くから、沙織ちゃんは先に座って待ってていいよ」
「ウン」
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