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今のペースなら朝の間にできる。
ありがたいことに、彼が強引だったのは会ったその日のだけで、質問はいろいろされるが、その後はあたしの生活に合われてくれているような感じだ。
あたしが仕事している間も、とりとめのないことを話していたり、持ってきた本を静かに読んでいたり。
決して邪魔になるようなことはしなかった。
「ねえ、ザイアス、あたしに会いにこんな街外れまでちょくちょく来てて大丈夫なの?」
いくら貴族であっても、男の人はそれなりの身分があって、その身分にあった仕事をそれなりにしているはず。
詳しくは知らないが、役所や王宮とかで働いていると聞いたことがある。
貴族の女の人は美しくなることが仕事だと誰かが言ってたっけ。
礼儀作法に社交界でのルール、食事の仕方や振る舞い方、知識と教養を身につけるための勉強をしてるとか。
そして、いい男……身分の高い男の目に留まって、跡継ぎを産み育てるのだとか。
まあ、あたしとは縁のない世界だしね。
「問題ない。」
親指を立ててドヤ顔で即答されてしまうと、それ以上質問する気にもならない。
ザイアスがどれぐらいの身分の貴族か興味はあるが、知ったところであたしには関係ない。
ザイアスからザイアス自身のことを話すような素振りもないため、たぶん質問されたくないのだろう。
ならば、別に聞き出す必要もないし、今のところあたしにこれといった迷惑はかけられていないので、ザイアスの好きなようにさせている。
………それにしても、今日も上等な服を着てる………。
来るたび違う服なのだが、どの服も見ただけでわかる。
高級で上等な生地に、細かく丁寧な縫い目。
職人レベルの仕立て屋が手がけただろうと推測できる。
ザイアスにお願いしたら、今着ている服を見せてもらえるだろうか?
自分のために、裁縫の勉強のためにあの服の縫い目を観察させてもらいたい。
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