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盗み、強奪、略奪は当たり前の日常の風景だ。
そうしないと生きられないのだから、誰もそれを咎めたりはしない。
盗られる方が悪いのだ。
金品を盗るために殺人なんてことも起きるが、いちいち騒ぎ立てることもない。
それがここ、ブレットリー王国の現実だ。
せっかく買った布と糸を盗られたら、明日からどうしようかと思ってしまうが、布と糸は換金が難しいようで、今まで悪い人に絡まれても、荷物を確認すると『ちえっ』と舌打ちされて開放されることが多かった。
スズメの涙な財布の中身はもれなく空にされてしまうが、あたしもあのどうしようもない飢えを知っている。
お金がなくて、食べるものも何もなくて、でもお腹はすいて……
そんな切羽詰まった人が人から奪う。
お金さえ渡してしまえばそれ以上は何もしてこないので、そういう人に出会ったら、抵抗せず素直に有り金を渡すとあたしは決めていた。
大通りを歩いていても、裏道を歩いていても、治安が悪いため、そういう人はどこでも出現する。
安全地帯は我が家だけ。
家から出たら危険がいっぱいだ。
「早く帰ろっと。」
あたしは歩く速度を早めた。
裏路地特有の分岐を迷うことなく進んでゆくと、進行方向に見慣れない場違いな団体さん。
高価そうな甲冑で身を固めている人が四人。
その四人が男の人を取り囲んでいる。
取り囲んでいるのが貧民街の人であれば見てみぬふりをするのだが…。
まず甲冑なんて貧民街の人は持ってない。
甲冑をつけているということは、貴族の私兵か王宮の兵か。
それなりの教育を受け、それなりの身分がなければ王宮の兵にも貴族の私兵にもなれない。
要するに、あの人達は裕福な人達。
なんでそんな人達が一般市民を取り囲んでる?
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