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しばらく無言で歩きながら、あたしは男の身なりを観察してみた。
とてもシンプルな上服に、これまたシンプルなズボン。
履き込まれた感じの全く無い布靴。
……服も靴もかなり上質の布を使用している。
その辺のボロ布や程々の生地とは違う。
……素材は絹?
見ただけでもわかる生地のしなやかさと、縫製の丁寧さ。
そして、そんな高級品を身にまとっている男は、金髪碧眼で、正直こんな風に引っ張り回されてさえいなければ、胸を高鳴らせてもいいような見目麗しい容姿をしている。
たぶんあたしよりは少し年上……かな?
あくまで見た目での判断だけど。
無難な裏道をすすむことしばらく。
「ねえ、あなたどこへ行きたいの?」
さすがにお腹もペコペコになったし、早く家へ帰りたい。
男の目的地へさっさと行って、家で昼食を食べたい。
しかし、男の返答にあたしは眉をひそめた。
「………街から離れれるのならどこでも。」
……ちょっと待て。
目的地はないんかい!
全力で突っ込んでやりたい。
「じゃあ、今のこの道を曲がらずにただひたすら真っ直ぐ進めば街の外へ出れるわ。あたしは家に帰りたいの。じゃあね。」
どこぞの世間知らずっぽい男の手を離そうと手を動かすが、なぜが更にぎゅっと男はあたしの手首を握りしめる。
「……まだ何か用?」
仕事でもないのに、お金ももらえないのに人と関わるなんて面倒。
「お前の家はどこにあるんだ?」
ずいぶんと偉そうな言い方。
身なりからして、どこぞの貴族なんだろう。
貴族は平民を下に見てるしな。
貴族であれば、この態度も納得できる。
「町外れにあるモーレンの森のすぐ側よ。」
あたしの言葉に、男の目が輝いた。
「よし、そこへ行こう。さあ、案内してくれ。」
「はぁ?あんた何言ってんの?なんで見ず知らずのあんたなんか家に連れてかなきゃいけないのよ!」
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