その魅力からは 逃れられない

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その魅力からは 逃れられない

現在時刻は午後の九時を過ぎた頃、公園に設置された複数のライトと満月の月明かりが遊歩道を照らす。自分はなるべく早足で家まで帰ろうとするけど、やっぱり転んだりすると心配されるから、足元を見ながら歩き続ける。 俺の名前は西狩 雪切(にしがり ゆきり)。今は親戚の家で暮らしている、高校二年生。だが自分の両親も妹もちゃんと実家に居る、実家から遠い高校に通う為に、親戚の家に身を寄せているだけ。 親戚夫婦はとても優しくて、いつも俺の事を気にかけてくれる。そんな二人に心配なんてさせたくないけど、夜道を出歩いている事にもちゃんと理由がある。 中間テストの勉強中に、シャー芯が底を尽きてしまった。でも勉強しないわけにもいかないから、仕方なく近くのコンビニまで買いに行く事に。親戚の家に自分の荷物を預ける時、鉛筆とかは実家に置きっ放しにしてしまった。 なるべく荷物を減らす為だったのに、それが不要な時間浪費を招いてしまうなんて、馬鹿みたいだ。俺はなるべくコンビニから家までの最短ルートをスマホで確認して、スマホのライトも点けながら歩いている。 自分はそこまで怖がりではないけど、それでも真っ暗闇の中を一人きりで歩くのは、誰だって怖い筈。だから俺は、月の光が照らしてくれている間に、早く家に帰ろうと必死になって歩いていた。 「・・・・・・・・?」 月明りに照らされた公園の隅、古くなった柵の近くで、何かが光っていた。最初は金属が光を反射しているだけかと思ったけど、近づいて見ると驚いてしまった。 それは金属ではなく、『植物』だった。今まで見た事の無い、とても美しい花。香りも甘く、生き生きとしたその花に見覚えはなかったけど、俺はついしゃがみこんで見続けた。 その花は月光を吸収して、自ら光を発している様にも見えた。だってその花の周りには街灯などの明かりが一切無いのに、月明りと同じくらいの光を放っている。 最初は花の模造品かとも思ったけど、やっぱり生の花。不思議だとは思ったけど、その美しさを目にすると、考える事も忘れてしまう。結局俺はその場所に三十分間居続けて、家に帰ると二人がすごく心配している様子だった。 俺は「コンビニで立ち読みしてただけ」と言って、勉強をする為に自分の部屋へ行く。そしてシャー芯をペンに入れていざ勉強を再開しようと思った。 でも、俺は無意識に椅子から立ち上がり、カーテンを開けて公園のある方向を見た。俺はまだ、あの花の事が忘れられなかったんだ。でも窓の向こうにある公園には、さっき見た光を発する花なんて何処にも見えなかった。
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