第2話

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第2話

 自転車置き場にやってくると、運悪く自転車が倒れていて自分の自転車が出せないのだろうか、一年のバッチをつけているところを見ると一年生なんだろう。  女の子が倒れた自転車を起こそうと必死に力を振り絞って自転車を起こそうとしていた。 「ほら、抑えててあげるから自分の自転車出して行きなよ」 「……はっ! 先輩ありがとうございます!  自転車を起こすことに集中しすぎてたのか僕の声に気付かず、僕が倒れた自転車を起こそうと腕を伸ばしたところで目があって礼を言って自転車を取り出して駐輪場を後にした。  元気な声で礼を言ってくれた女の子を見送った後、ふぅと一息して持ち上げてた自転車を下ろした。 「力仕事はやるもんじゃないな……」  内気でインドア派な僕は力という力を有していないし、むしろ運動部に所属する女の子たちと握力勝負ではいい勝負をするのではないかと思うほど、非力だと僕はそう自分自身を評価している、  とりあえず自転車出して早いとこ天宮さんの所に行こう。  自転車を押しながら天宮さんが待っている場所まで行くと、今までに見たことないくらいのジド目で駐輪場から出てきた僕を見てきた。 「なにかあったの?」 「別に〜だ! 陽太はどんな女の子にも優しくするのが陽太だから別に怒ってないよ!」  別にと言っているものの、見てからに怒ってるようにしか見えないんだけど……。  ……あぁ。  さっきの女の子のことかな?  いや、でも流石にわかんないと思うんだけど……。  僕の気のせいなのかな? 「陽太が駐輪場から戻ってくるのが遅かったからって怒ってないよ!」  女の子のことではないんだね。  ……ん?   いや、でも遅かったから怒ってるってことは……。  とてつもなく嫌な予感がするんだけど、僕の気のせいなのかな? 「早く乗っけてよ陽太」  ばしばしと僕の背中を叩いてそう呟いた。 「女の子のことは触れないんだね」 「言ったら陽太はどうしてたの?」 「困ってたと思う」 「ほらね? だから言わなかったんだよ。だぁかぁら、早く後ろ乗っけて?」  早く自転車に乗るようにと強要されなくても乗ったんだけど、強制的に乗らされて早く出ろと言わんばかりにでかい胸を僕の背中に当てながらふぅと生暖かい息を耳に当てていじらしく僕の腰に腕を回して落ちまいとぎゅっと握ってきてる。 「なんで胸当ててるのさ」 「あたしの胸は嫌だっていうの?」 「そ、そそんなことは言ってない」 「じゃあもうちょっとだけ当てとこうかな〜?」  もうちょっとだけと言ったが自転車をこぎ続けること数分、僕の家から学校までの中間距離に位置するコンビニついたのはいいんだけど、僕の背に天宮さんが故意に当ててる胸が密着しているせいかより当たる面積が増えてる感じもするんだけど降りる気配がしない。  もしや、僕にうちまで送れということを遠回しに言っているのか? 「ねぇ天宮さん」 「なんだね神原くん」 「もしかして僕に家まで送れって言ってるの?」  そうやっていうとそんなこと一言も言ってないけど? って顔をされたんだけど、僕の思い違いなのかな? 「じゃあその胸をわざと僕の背中に当ててるのはなんで?」 「私が後ろなんだから陽太にくっつこうと思ったら胸当たるよね?」 「……僕が悪うござんした」 「わかればよろしい」  そのさ、勝ち誇ったみたいに胸を貼るのやめてほしいんだけど……。  いや、完全に僕が悪いんだけどさ。 「悪いと思ってるならついでにあたしんちまでレッツゴー!」  やっぱりそっちが狙いだったか、送迎のこともあるしここは素直に天宮さんを家まで送ることにするか。 「あたしんち行くついでに聞くんだけど。陽太って誕生日いつだっけ?」 「僕の誕生日? クリスマスだけどそれがどうかしたの?」 「うんん。なんか欲しいものあるかなって思って。陽太って無欲だから」  無欲ではないけど、欲しいものはないかな?  今までずっと妹を優先してきた生活だったからな。  姉ちゃんに何が欲しい?って何回か聞かれたけど、正直言ってちょっと困った。  本当に欲しいものがないから。  まあでも、せめて欲しいというか一緒になれたらなって思いはあるから。 「強いて言うなら天宮さん……かな?」  そんなことをつぶやくとピタリと天宮さんからの反応が無くなった。  俺ってそんな寒いこと言ったかな? 「なんて冗談に決まってるでしょ! 天宮さんも本気にしないでいいからね?」 「……いいよ。本気にしても」 「冗談だってば!」 「クリスマスになったらあたしをあげるねっ。それまでに女として磨き上げとくからさっ!」  う、うん……。  からかうつもりで言ったのが本気と捉えられたようでクリスマスの僕の誕生日の日に天宮さんをもらうことが、決定事項となった。 「うち近いからここら辺でいいやっ」 「え、ちょっ……!」  当の天宮さんは僕の方へ振り向きもせず、走っていった。  残された僕はあっけにとられてたが、後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。 「車道側によるか内側によるかどっちかにしなさいよ」 「あれ。こんなところで何してるの?」 「あんたがそれを言ってどうするのよ。あたしはお姉ちゃんとあんたがあたしの前を通ったから追ってきてあげたんじゃない」 「それは悪いことしたな。ごめん莉緒」 「私のことは名前呼びなのね。お姉ちゃんは名字呼びなのに」  声の主は、先程まで一緒にいた天宮さんの妹の天宮莉緒。  説明は省くとしてあいかわらず僕にだけ棘なんだなぁ……。 「嫌だって言うなら名字呼びにするけど」 「なに? 私を名前で呼ぶことに抵抗でもあるの?」  えぇ……。  さっきまで名字呼びがどうのって言ってたのにもう変わったの?  姉妹揃ってよくわからない。  なぜ彼女、天宮莉緒と知り合ったのかというと、初めは学校の図書館で出会った。  ただそれだけの関係だったけど、一年の二学期終盤くらいの時期から外でも合うようになり、ある程度話すような関係になったと思ったら、初めて天宮さんの家に呼ばれた日、名前を聞きそびれてた僕は彼女が天宮さんの妹だということは知らずに家にお邪魔して顔を合わせた時は気まずいなんて生ぬるいものじゃなく、一瞬死期を悟った。 「それでそっちはなんの帰りなの?」 「見てわかんないの?」 「わかんないから聞いてんだけど」  で、言葉にキャッチボールがまともにできた試しがない。  嫌われてるのかなと思うけど、天宮さんによると妹なりの愛情表現なの。とは言ってただけど、これのどこが愛情表現なんだろうか。 「だから、お姉ちゃんが陽太のために晩御飯を作ったって言ってんのよ!」  近くにあった公園のベンチに腰を下ろして仲良く見えるかはさておき、ゆっくり話そうと思ったけど座ってからの開口一番にそういう風に言われた。  確か天宮さんこの間料理下手だとか言ってたような……でも、頑張って僕のために作ってくれたってことか。  だから僕に家までって言ったってことで良いんだよね? 「私が連れてきたって理由でうちに連れてってあげても良いけど?」  是が非でも天宮さんの作った料理を食べたいような気もするんだけど、今日って姉ちゃん帰ってきてたかな……。  帰ってこないならバカ親父と妹を二人っきりにはできないから迷う。 「何よ。お姉ちゃんの手料理を食べたくないっていうの?」 「食べたくないわけじゃないんだけど、家に姉ちゃんが帰ってこないなら僕は帰らないといけないから」 「千夏ちゃんなら友達のとこに泊まらせてもらうって言ってわよ?」 「なんでそんなことを知ってるんだ?」 「私も詳しくは聞いてないけど、ママが陽太くんから聞かれた時にそういう風に言いなさいって」  つまりはだ。千夏は親父とはいないから別に大丈夫なんだけど、なんでおばさんが千夏のこと知ってるんだ?  まあそんなことを考えるより、千夏が大丈夫なら僕も天宮さんの家にお邪魔しても問題ないかな? 「ほら、そうと決まったなら行くわよ」  う、うん……。 「そういえば陽太。あなたの誕生日ってクリスマスよね」 「え、うん。そうだけどどうかしたの?」 「別になんでもないわ。今年も選んであげるから期待しないで待ってなさい」  うっ、頭が……。  確か去年もこんな会話したような記憶が……期待しないで待っとくとしよう。  去年は僕の記憶が正しかったら天宮家にお呼ばれして豪勢な晩御飯とクリスマスケーキ、それに奈緒と莉緒、おばさんの三人からプレゼントをもらった。  いくら無欲だとは言っても、初めて誕生日プレゼントというものをもらったから有頂天にもなる。  あの時は奈緒からキスのプレゼントとか言われて襲われかけたけど、おばさんが気を利かせてくれて助けてくれた。  翌日の朝、枕元に手書きの手紙が二通。  それに奈緒とペアルックのネックレスと同じ色の手編みマフラーに手袋をもらった。  内心もらったことがなくて初めてもらったものだから、複雑な気持ちと感謝の気持ちがごちゃまぜになってた記憶がある。 「なに人の顔見てニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い」 「あ、あぁ……ごめん。他のこと考えてた」 「へぇ〜……私と話しておきながら他のことをねぇ〜……?」  僕としたことが、莉緒と話してて思い出にふけっていたら、見られてた本人の莉緒が莉緒がニヤニヤしてたって言うんだから本当のことなんだろう。  莉緒の声が聞こえたと思ってハッと我にかえると、莉緒の顔があと三十センチくらいの距離まで縮まっていることに気付き、素早く距離を取る。  すると莉緒は莉緒で天宮さんとは違った小悪魔的な笑みを浮かべながらそうつぶやいた。 「アイス一本で勘弁してあげるわ」 「え……」 「当然でしょ? 人の顔を見ながらニヤニヤしてたんだから。本当なら警察よ?」  た、確かに莉緒だから警察沙汰にならなかったものの、第三者と今みたいなことになってると間違いなく変質者っ! って叫ばれて警察沙汰になりかねない。  言われてみたら完全に僕が悪いんだからアイス一本で勘弁してくれた莉緒なりの優しさもどこかしらにあると思いたい。 「ガ◯ガ◯くんのソーダ味でいいわ」 「変に気を使わないでいいのに……」 「なに……? 何か言った?」 「なんでもないです」 「そう。なら十分以内に買ってきて」  十分以内と莉緒に言われたが、ここからコンビニまで片道信号待ちも合わせて四分くらいでレジとオーダーのアイスの位置を把握してないから多分今じっとしてたら間に合わないぞ……! 「ほら、早く買いに行かないと間に合わないわよっ!」  さっきの笑みとは違って、天宮さんが魅せたあの柔らかい表情に似てる笑みを浮かべる。  まあそりゃ、似てるのもそのはずだ。  姉妹なんだから瓜二つに似てるところがあってもおかしいところはなにもない。 「ふふっ。レッツゴー!」 「莉緒も歩きながらでいいからこっちに来てよ!」 「考えといてあげるわっ!」  時間がないと思って走りだしながら、思い出して駆け足ながら振り向いて莉緒に歩いてでもコンビニ来るように伝えて再びコンビニに向かって走りだした。
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