ただいま。

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   夜中にこっそり帰って脅かしてあげるの。  不法侵入だなんて言わせない。だってここはずっと前から私の家だから。窓でも裏口でもない、ちゃんと玄関から入るわ。  皆が寝静まった頃、からりと鳴る玄関の引き戸。誰にも見つからないようにしなきゃ。  出来るだけ音を立てないように廊下をそぞろ歩いて、一番奥にあるあの子の部屋に向かった。枕元に足を投げ出して座る。あとは朝になるのを待つだけね。 「お母さん! この子、帰ってきてたよ! 仲直りしてくれたんだ、よかった!」  翌朝、私を見つけたあの子はそう言って狂おしいまでに抱き締めてくれた。母親は私を見て顔面蒼白。無理もないわ。だって、娘が見せた私への異様な執着に、古くなったからって気味悪がってゴミと一緒に捨てたのは貴方なんだから。  ーーただいま。  少女の腕の中で母親を一瞥(いちべつ)して、にぃ、と薄ら笑う。  それから毎晩、母親の夢枕に立ち続けた。時にはガラスの目玉を見開いて、作り物の肌を引きつらせ、ケタケタ、ケタケタと笑ってやったわ。  
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