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1.ボディガード
『体調不良って聞いたんですけど身体はもう大丈夫ですか? 月曜日、部活で会えるの祈ってます。』
テニス部後輩の三沢徹哉――三沢君から初めてメールを貰ったのは、ショウさんと柴山さんから元気を貰った週末を、終えようとしていた頃だった。
『……俺も先輩と仲良くしたいです』
無遠慮に近づいてきた浅井響介という先輩に煽られたせいか、そう言われて三沢君ともメルアドを交換したのを思い出した。三沢君も浅井先輩同様、私の前世である上地尚親の関係者(の記憶を持つ者)である為、頭痛の種ではあったけれど、ショウさんと柴山さんに会ったことで、今の私は前世の縁に対して前向きになっていた。
「心配してくれてありがとう……と」
三沢君のメールに返信を打ちながら軽く伸びをする。実はまだ、未返信のメールがひとつ残っている。
『今日は図書館行けるよな?』
金曜日に私が休んだのを知らない浅井先輩からのメールだった。このメールを貰った時は、尚親が切腹して果てる夢を見た影響で、気分が悪くてベッドへ横になっていた。とても返信出来る精神状態では無かったのだ。
「これも返さなくちゃな」
浅井先輩との事は、三沢君程前向きには捉えられなかったが、返信をする気持ちになれただけ、私にとっては大きな前進だった。
* * * * *
月曜日。私にとっては三連休明けとなる登校。一日休んだくらいで周りが変わって見えるわけもなく、いつもの日常へ溶け込むように、下駄箱で靴を室内履きに履き替えようとしていたその時、
「よう。久しぶりだな、直緒」
後ろを振り返ると、浅井先輩が額に青筋を立てて仁王立ちをしていた。
(日常に溶け込みきれなかった!!)
「お、おはようございます、浅井先輩」
「響介な? てか、昨日のメール何だよ!」
「昨日のメール?」
「とぼけるな、これだよコレ!」
『返信遅れてスミマセンでした』
私の打った文章が表示されたスマホ画面を、眼前に見せつけられた。
「俺、この後『何で金曜休んだ?』って送ったよなぁ?」
「送られましたっけ?」
「このっ!!」
先輩が私の額にデコピンを打とうと指を構えると、急に横から腕を引っ張られ、先輩の指は空を弾いた。
「おい! 話はまだだぞ!! 待て!!」
何者かに腕を引っ張られたまま廊下を走り、角を曲がったところにある被服室の扉を開け、私達はそこへ逃げ込んだ。
呼吸を整えるように息を潜めると、遠くで「おい! どこ言った!?」という先輩の声が聞こえる。扉の窓から自分の姿が見えないよう柱の陰に隠れようとすると、そこには既に私を連れ去った人物が居て、思わぬ至近距離で顔を見ることになった。
「三沢君!?」
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