3.裏切り

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「ありがとう。でも俺、好きな人がいるんだ。だから付き合うのは……ゴメン」 「そっか……。それってもしかして、噂の一コ上の先輩?」 「え? あぁ、うん」 「その先輩と付き合ってるの?」 「いや、付き合ってはないけど」 「その先輩……三沢の気持ち知ってて弄んでるんじゃないの?」  彼女の言葉で、私の足はやっとその場から動き出した。…というか、正しくはその場から。  どこの誰かも知らない下級生に、無意識下の心中を言い当てられたような、後ろめたい気持ちが胸に広がっていた。それはきっと、意識的に三沢君を弄んではなかったにしろ、私の中で三沢君の好意に甘えていたところがどこかしらあったからだ。結果的にそれは、他人からしてみれば三沢君を弄んでいるように見えてしまっている。 (私、サイテーじゃない?)  一年の教室が並ぶ廊下を離れると、一目散に下駄箱へ向かって走った。これから部活へ出るつもりだったが、今日は休ませて貰おう。このまま部活へ出ても、三沢君とどう接したらいいのか困るだけだ。それに今は、周りの目が痛い。  下駄箱で靴に履き替えようとしていたら、急に誰かが私の腕をむんずと掴んだ。 「よぅ、久しぶりだな」  それは、散々逃げ回っていた相手の浅井先輩だった。最近は三沢君と一緒に居たおかげで接触してこなかったが、三沢君から離ようとした途端、このザマだ。 「あ、浅井先ぱ……」 「響介な? いい加減下の名前で呼べよ」 「何でですか!?」 「元夫婦だから」  先輩はニヤリと口角を上げるが、目は笑っていない。今の会話を誰かに聞かれて無いか急いで周りを見回したが、運良く周りには誰もいなかった。 「そう言えば、もう一人の元嫁はどうした? いつもお前に引っ付いてたよな」 「三沢君は今ちょっと取り込み……」  そこまで言って、ハッとして先輩を振り向いた。 「やっぱりそうか。あいつの前世は桔梗なんだな?」  鎌をかけられて、まんまとそれに乗ってしまった。咄嗟に「いや…そうじゃ……」と否定を試みてみたが、先輩には逆効果だったようだ。したり顔でこちらを見ている。やはり浅井先輩は思った以上に鋭い。 「じゃあ、あいつにも手伝って貰うか」 「それだけはやめてください!!」  余りにも強い口調だったせいで、先輩の動きが一瞬止まった。 「私が…私がちゃんと手伝いますから、三沢君は巻き込まないでください」  祈りにも似た気持ちで、気が付けば必死に懇願していた。
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