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『俺が先輩のボディガードしますよ』
湯船に浸かりながらぼんやりしていると、不意にそう言った三沢君の笑顔が脳裏に蘇った。あの時は確か、浅井先輩から隠れた被服室で言われたんだった、と状況を思い出す。
『じゃあ今日から先輩のこと、「直緒先輩」って呼んでいいですか?』
厚かましいと思ったのに、何故か断れなかった。
『その先輩……三沢の気持ち知ってて弄んでるんじゃないの?』
これは三沢君に告白していたクラスメイトが言った言葉だ。この言葉で私は、三沢君に甘えていたのに気付いて、その場から逃げた。
『何焦ってんだろ俺……恰好悪っ』
吐き捨てるように言って、保健室を出て行った三沢君の後姿を思い出す。
表情は見えなかったけど恐らく……
(さすがに私のこと、呆れたよね)
鼻がツーンとして、私は顔を湯船に浸けた。三沢君には何も言わないまま、浅井先輩と自分の過去に向き合おうと決めたのは自分だ。過去の事に巻き込みたくなくて離れたはずなのに、嫌われたく無いなんて…。
もっと早くちゃんと向き合っていれば、三沢君に嫌われる事も無かった?
三沢君と一緒にいなければ、こんなに悲しくなる事も無かった?
(いつの間にか私、三沢君のこと……)
自分の気持ちに気づくのが遅すぎた。三沢君は浅井先輩から守ると言ってくれたのに、先輩にこっそり会っていたとこを見られてしまったのだ。さすがの三沢君も、私に裏切られたと思ったに違いない。
裏切るつもりは無かったけれど、自分の中途半端な行動が周りを誤解させ、三沢君自身も傷つけてしまった。そして自分自身も――
『……君には前世と正確に向き合う必要があると出てる』
ショウさんが占ってくれた時に言った言葉だ。
(ショウさんは助言してくれていたのに、何やってんだろ私……)
涙が止まるまで、私は湯船の中で息を止め続けていた――
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