「マンション9階」

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「それより、自分の期末テストの結果を  どうにかしないとなあ。」 さとみはそうぼやきながらバスに乗り込むと スマホをタップしアプリの単語帳を開く。 2年の時点で成績は中のやや下。 進学校に通っているとはいえこの成績。 一応、理系で行こうとは思っていたが、 このままでは第一志望はおろか、 第二志望の大学も危ういかもしれない。 「うー、中学の頃はこんなんじゃなかったのに。  勉強しなくても成績よかったのに。」 ブツブツ文句を言いながらも、 英単語問題のアプリを解きつつ学校へと向かう。 隙間時間で勉強ができるのでなかなか重宝しているが、 うっかり次のバス停を見逃すこともあるので油断は禁物だ。 「それでも私は時間が惜しいんですよ…っと。」 そうして最終問題を解いたところで、 停車ボタンが押されたのか目的地にバスが止まり、 ぞろぞろとスクールバッグを持った生徒が降りていく。 さとみも彼らに紛れながら高校へと歩いていくが、 学校に着く前に隣から声をかけられた。 「あ、トミーいた。こっちこっち。」 そうして肩をたたくのは、 1年からの付き合いである柊悦子だった。 トミーというのはさとみのあだ名で、 名付けたのはもちろん悦子である。 「おはよう、文化祭のクラスの出し物どうする?」 開口一番の悦子の言葉に、 さとみは「まあ」と言葉を濁す。 「月並みなのでいいんじゃない?  喫茶店とか綿あめ屋とかさ。」 「あー…まあ、そういうのもありかもね。  でも、ダメだよ。クラス委員長なんだから。  もっと派手で面白いの出してもらわないと。」 「えっちゃんみたいに実行委員でもなければ  面白い発想は出てこないと思うよ?」 「そうかなあ?」 そう言って悦子はケラケラと笑いながら 文化祭の出し物についてあれこれと意見を出す。 さとみもそれにうなずくが、 正直、あんまり乗り気ではない。 何より、さとみはしたくて クラス委員長をしているわけではない。
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