「司法解剖」

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「司法解剖」

大学病院の廊下。 教授のおごってくれた紙コップ入りの コーヒーを手に持ちながらも、 数原さとしはソファに座り愕然としていた。 隣には教授も座り、 慣れた様子でコーヒーを飲む。 「かなり動揺しているようだが、大丈夫かね。」 さとしは手の中でコーヒーをつかみながら、 絞り出すような声でこう言った。 「正直、ありえないですよ。  なにが起きればあんなことになるんですか?」 それを聞いた教授は長いため息をつく。 「そのために行われるのが司法解剖だ。  だが、今回は原因ではなく結果だけが残った形だ。  …まあ、こういう事例があることも覚えておくといい。」 「ですが…」 それ以上の言葉を教授は手で制し、 コーヒーの残りをすする。 「問題は、君が手がけた以外にも  これと同じ事例がこのひと月のあいだに  別の箇所で8件も見つかっているという事実だよ。  この多発具合から考えるに下手をすれば  病気の線も疑わなければならない。」 ぽろっと出た言葉にさとしは驚きを隠せないが、 それ以上に教授の言葉に聞き捨てならないものがあった。 「でも、頭部を持ち去られたのは事実ですよ。  事件性がないわけないじゃないですか。」 それに対し教授も「ふうむ」と考え込む。 「確かに、そこが不思議でたまらない。  だが遺体の体に異変が起きている以上、  因果関係がないわけでもない。  …ただ、その接点については警察任せだ。  犯人が頭部を持ち去っている以上はね。」 そう言うと教授は、 先ほど終わった司法解剖を思い出すかのように 病院の床に視線を落とした。
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