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男は白くぼんやりとした空間で目を覚ました。自分の他には、目の前で机に向かっている老人の他に何もなかった。その老人は神だった。名札を付けているわけでも、本人が言ったわけでもなかったが、不思議と確信できた。
「やっと起きたかね。」
机に向かったまま神が言った。
「最近は君のような若者が多くて困っているんだ。予定より早くこっちに来てしまうなんて。こちらの都合も考えて欲しいもんだね。」
こちらには一瞥もくれずまくしたてる。
「私は死んだのですか。」
状況がよく分かっていない男は、つい思ったことを口にする。神は迷惑そうにため息をついて言った。
「まあ、そうさな。だが、突然来られても死なせることはできんのだよ。途中で命を捨てた者にはもう一度生きてもらう決まりになっておる。何かなりたいものはあるかね。」
自殺したら生まれ変われるという事だろうか。確かに生きるのを投げ出した人間にはちょうどいい罰かもしれない。
「石に生まれ変わったりしたら、痛みを感じるのでしょうか。」
神は初めてこちらを見た。
「石?あの、道に転がっているやつか。あれになりたいのかい。」
「はい。生前ずっとそう思っていた様なんです。無理でしょうか。」
神は腕を組んで考え込んだ。
「いや。無理という事はない。だが、あまり例がないものでな。先の質問だが、痛みを感じなくすることはできるし、周りの様子を窺い知れるようにすることだって可能だ。」
「では、周囲の状況は分かるけれど痛みは感じない石でお願いします。」
男は顔を少し明るくして言った。
「どうせだから少し大きい物にしてやろう。」
神がそう言うのを聞きながら、男は意識の深い淵へ沈んでいった。
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