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私の時間は拓郎が亡くなってから、止まっていた。
拓郎が亡くなり丁度一年・・・
梅雨が明け、海は穏やかで、この一週間は晴れ間が続いていた。
陽射しが強くなり、太陽の光が海底に反射して、より海の透明度が増して、サンゴ礁もキラキラと輝いているように見えた。
台風の季節が来る前の束の間の美しい景色。
そんな景色やバカンスを楽しむ為、大勢の人達が高速船を待っていた。
私もその一人。
ようやく到着した高速艇。
タラップを上がり、人が数珠つなぎで乗り込んでいく。
タラップの段差に私のトランクのタイヤが引っ掛かってしまった。
私が後ろを振り向くと、黒いサングラス、カンカン帽子をかぶった長身の男性が引っ掛かったタイヤを持ち上げてくれた。
「あ、ありがとうございます・・・」
「礼はいいから、早く行ってくれ。君のせいで後ろがつかえている」
男性は早口で、凛香を捲し立てた。
「す、すいません・・・」
私はすぐさま謝り、そそくさにタラップを上がって行った。
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