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梅雨入りした七月の束の間の曇り空。
湿った空気の含んだ生ぬるい風が私の頬を撫でた。
定時で仕事を終え、駅前の駐輪場に停めた自転車に乗り、息子の玲也の通う保育園のお迎えへと向かう。
「ママ!!」
母親の私の姿を見るなり、園室の奥で友達と積み木で遊んでいた玲也は一目散に走り込んで、足許に纏わりついた。
「ママ、今日ね・・・ボク、ご飯ぜんぶたべたんだ・・・それからね・・・」
玲也は嬉しそうに笑顔を浮かべ、機関銃にように喋りまくる。
「よかったね・・・玲也」
「うん」
「阿川」
保育士として、働く高校時代の同級生・小森正平(コモリショウヘイ)が私たちの元に歩み寄って来た。
小森君は玲也のぞう組の担当保育士。
「小森先生・・・」
「今日は早い帰宅だな・・・」
「うん」
長身で短髪の小森君。
高校時代は陸上部に所属し、短距離選手としてインターハイでも入賞を果たすほどの実力者。
日本体育大に進学し、オリンピックを目指すとクラスメイトの私たちに自慢していたが、足首の怪我により、断念した。
そんな、小森君と久しぶりに再会したのが、保育園の入園式。
互いに驚き合ったのが昨日の話のよう。
私がワケあって、相手の男性とは一緒にはなれず、一人で玲也を産んだ事を知った彼は、何かと私と玲也の世話を焼いてくれた。
私も彼の優しさに甘え、頼る事もあり、私たちの距離は近づいた。そして、とうとう私は小森君から告白された。
でも、私はーーー・・・
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