現世(うつしよ)のささやかな希望

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その後・・・私達が聞いたのは、悪の科学者、プロフェッサー・カホは香帆琥太郎という外科の偉い先生だということで・・・淳子さんはそのお孫さんだと言う事・・・。 「すまなかったね君達・・・孫の淳子は昔から悪戯好きでね・・・。」 香帆先生はそう言って、私達に冷たい麦茶と、食べたこともない様なクッキーを出してくれた。 「淳子は半年前に事故で右の膝から下を失ってね・・やっと退院し、今こうして療養中なんだが、お友達と中々会えないのでつい君達をからかって遊んでしまったようだ・・・すまなかったねぇ。」 香帆先生はそう言うと、今までの経緯を話してくれた・・・当時の私達には難しい話であったのだけれども・・・。 香帆先生は東京の大学病院の偉い教授だった事。 戦争中に大陸にあった陸軍の秘密研究所に所属していたことが問題になり、職を辞さなければならなかった事・・・。 職を辞した後、茨城の湯沢温泉の近くに移り住み隠棲していた事。 半年前に孫である淳子さんが事故に会い、右膝から下を切断しなくてはならなくなった時、思い立って茨城から愛知へ出て来たのだという・・・。 それは、N大に香帆先生が職にいる間に研究していた特殊な義手義足の研究を続けている後輩たちがいて、彼らの協力を得ながら、淳子さんに少しでも普通の生活が出来る様な義足を造る為だったという。 「それが、病院からこうして現世に戻った私のささやかな希望なの・・・。」 淳子さんが、今の生活を現世(うつしよ)という言い方で表現して言った。 「きっと、素敵なものが出来ると思うわ、だって人類が月へ行く時代ですもの・・・科学は日々発展しているから・・・。」 さっきゅんがそう言うと、香帆先生と淳子さんはにっこりと笑って頷いた・・・。
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