幸せな気持ち

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「どのエレベーターに乗っても大丈夫だよ。どれも4階までだから。ここのマンション、全部で25戸しかないんだけど、エレベーターは3基あってな、プライベートが守られてるんだ。俺はまだ会ったことないが、芸能人も住んでるみたいだぞ」 「えっ、芸能人?」 目を見開きながら聞き返す。 「そう。だからここに住んでる人にはほとんど会うことはないよ。あっ、1階にはコンシェルジュがいるから、コンシェルジュには毎日会うけどな。 もともとここのマンションは瞳子と直人さんが住んでいたんだ。最初は2人で快適に暮らしていたらしいんだけど、啓太が生まれてから改めて周りの環境を考えた時に、保育園や公園とかさ、もっと同世代の子供がいる環境で啓太を育てたいと思ったみたいでな。それで今の家を買ったんだ。 ここは最初別の人に貸してたんだけど、ここってこれだけセキュリティーとプライベートが守られてるだろ? だから入居するにも厳しい審査があって身元がしっかりとしてる人しか入れないらしいんだ。貸す場合は毎年身分が証明できる書類を提出して1年契約で更新していくらしくって。 ちょうど俺が日本に帰ってくることが決まったときに、今まで貸していた人と契約更新をせずに、俺がここに住まわせてもらうことになったんだよ。もう支払いは済んでいるみたいだから、破格の家賃で住まわせてもらってるんだけどな……」 髪をかきあげながら、ははっと苦笑いを浮かべる副社長。 こんなセキュリティーやプライベートが守られてて、芸能人も住んでいて、ここの家賃っていったい……。 瞳子さんってすごい……。 っていうか……、瞳子さんも副社長も私とは住む世界が違いすぎる……。 自分との環境の違いを目の当たりにして、戸惑いを感じてしまう。 このまま副社長と一緒にいることが、なんだか許されない気がしてきた。 視線を落としながら気づかれないようにそっと息を吐いていると、急に頭の上に温かい何かが触れた。 それが、副社長の手のひらだとわかり、ゆっくりと視線を向ける。 「美月、私とは住む世界が違うとか、やっぱり一緒にはいれないとか思うなよ。副社長という地位も、このマンションも俺の力で得たものじゃなくて、全て俺の家族に付随しているものだ。俺はただの普通の人間だから。まあ、美月がそんなこと思ったとしても俺は美月を手放すことは絶対にしないからな」 この人は私の心の中を読むエスパーなのだろうか? 口元を緩めて私が安心するように優しい笑顔を向けてくれる。 こんな風に、こんなに好きになってもらって、私は副社長に何をしてあげることができるんだろう……。 そんなことを感じながら、私は無理やり小さな笑みを作って返した。
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