山内美月という秘書 –壮真side-

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そんな時、マーケティング部の塩野(しおの)部長が訪ねてきた。 塩野部長は、親父がまだ社長になる前、親父の下で一緒に働いていた人物だ。 物腰は柔らかいが、頭のキレは相当なもので、仕事においては常に結果を残してきており、親父の信頼もさることながら、部下からの人望もかなりある。 その部長が秘書部より俺の秘書の話を聞き、マーケにいる自分の部下で、山内美月という女性を秘書にしてはどうかと話を持ってきた。 塩野部長の話では、現在、彼の秘書業務のようなサポートをしながら、マーケで市場分析や調査の仕事をしており、売れ行きやニーズ、シェアなども分かっていて業務の話も通じるし、資料作成も難なくこなせる女性だそうだ。 彼としては、マーケから彼女を手放すのはとても痛いが、俺の秘書として仕事をするのなら、人事部と秘書部に話を通すということだった。 「それにですね、これはチーフの吉川(よしかわ)さんも切望されているお話です。山内さんの説得は私がするとおっしゃってます」 「えっ、瞳子(とうこ)が……?」 「はい。そうです」 塩野部長が『これで理由が分かりましたか?』と言わんばかりの顔で微笑んだ。 昔から何かと俺の世話を焼きたがる瞳子の話が出てきたところで、俺はこの話を仕方なく受け入れることにした。 アイツに歯向かうとうるさいし、あとでロクなことがない。 そして4月になり、塩野部長の話通り、その山内美月が俺の秘書として配属された。 確かにマーケにいただけあって、資料の作成や分析も正確だし、クライアントのことも良く熟知している。 スケジュール調整も俺が指示をすることなく考えて調整してくれているようだし、移動の手配などもそれに合わせて予約されており、結構助かっている。 それに必要最低限のことしか話さないし、俺にとってはかなり有り難い。 俺は言葉には出さなかったが、塩野部長と瞳子に相当感謝していた。
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