天使は甘いキスが好き

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「あの、放課後生徒会の用事が」 「今日は特別。ね?」  一ノ瀬はサインを貰った生徒手帳に、うきうきしながら宮前を見上げる。「そうだな。美術部にも声を掛けておくよ」 「…言葉に甘えるよ。宮前ありがとう」  鈴は苦笑して職員室を出る。授業の知らせが校内アナウンスで流れた。 「祐太また後で」 「え? あぁまた後で」  結局自分は何をしに来たのか。平片は肩を落として中等科へ戻って行った。 『お母さん、今なんて?』  鈴はファミレスで向かい合ったナンシーに英語で訊き返した。 『パパとも相談したのよ? いつまでも鈴をひとり日本で暮らさせるのは問題あるって』 『問題って…近くにお祖母ちゃんや伯父さん、恵だって居るよ?』 『でも一緒に住んでないじゃない。最初あちらでご厄介になるって話し出たのにあなた嫌がって』 『それは…』  鈴は言葉に困って俯いた。 『今生徒会長の任に着いていて、迷惑は掛けられないよ』 『鈴はママとパパが嫌い? 一緒に暮らしたくはないの?』 『好きだよ? そりゃあ家族三人暮らせたら』  ナンシーは鞄から母子手帳を取り出した。 「これ…」  鈴は我が眼を疑って、母子手帳とナンシーを見比べた。 「まさか」 『おめでとう。鈴。あなたお兄ちゃんになるの』  どきんとして、鈴は喜びで目頭が熱くなってきた。 『今三か月なの。家族が増えるのよ。今度こそ皆で暮らしましょう? ママの仕事はイギリスで固定にするし。ママ、鈴が傍に居てくれると嬉しいのよ。今度はママの我儘を許して欲しいわ』  鈴は平片を思い浮かべた。イギリスへ行ったら、いつ会えるか解らない。もしかしたらそのまま疎遠になりかねない。  そんなのは嫌だ。 「少し…考えさせて」  これは日本語で伝えた。すっかり冷めてしまったコーヒーは、ただ苦いだけの飲み物に代わっていた。 「マジかよ」  公園で待ち合わせをした平片は、鈴から衝撃過ぎる内容を聞かされて、ベンチに座り込んだ。 「お母さん来週いっぱいまで日本に居るって。それまで決めて欲しいって」「なんだよそれ」  平片の苛立ちが、鈴を俯かせた。 「イギリスなんて遠過ぎだろ」  鈴は唇を噛んで、平片の隣に座った。 「祐太…」 「ごめん、ちょっと考えさせて」  鈴は泣きそうになって立ち上がり、お休みだけ告げて帰宅した。  ちゃぷんと湯舟の音を聞きながら、鈴は平片の事を思い浮かべていた。ナンシーは、リビングではイギリスに居る鈴の父親と電話中だ。平片が居るから、当初イギリスへの移住を断って、この家に留まった。全ては鈴の我儘からだ。本当ならとっくにイギリスに移住していた筈だ。  兄弟の居る恵が羨ましかった。平片に大事にされていた恵が羨ましかった。「本当は、この関係を始めるべきじゃなかったんだ」  熱い平片の身体。獣のように求められ、幸福に包まれた短い期間。今直ぐにでもキスして欲しい。抱き締めて欲しい。熱い楔で揉みくちゃにして欲しい。「祐太…」  ゆうるりと湯舟の中で硬くなった陰茎に左手で包んだ。右手の指で秘孔に触れる。 「…は…」  湯で温められた秘孔は、難なく指を迎え入れ、前立腺を掠める。  平片が欲しい。掻き混ぜて欲しい。奥に熱い蜜を掛けて欲しい。  『ごめん、ちょっと考えさせて』  平片の言葉が蘇って、鈴は涙を零した。こんな思いをするのなら、恋を知らなければ良かった。  鈴は声を殺して泣いていた。
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