隣の席には悪魔がいました…。

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隣の席には悪魔がいました…。

「………っ、さ、最悪だ……」 隣の席を見て。 思わずポツリと呟いた。 俺の隣にはイケメンだが、高慢な上に自己中、性格最悪な、桐生蒼馬がそこにいるからだ。 誰だよ、席替えしようと言い出した奴!! ……って、言い出したのは桐生だったな…。 チラリと隣の桐生を見ると、同じように桐生も隣の席の俺を見た。 桐生は俺と目が合うと苦々しい表情を浮かべ、鬼のような形相でギロッと俺を睨んできた。 こっ、怖っ!!! イケメン、激オコじゃんか!! ヤバイ、目を合わせたら殺られる!! 慌てて目を反らして、自分の机へ頭を屈めて撃沈する。 チッ……マジでついてない。 アルファの隣は絶対、絶対にイヤだったのに…。 昔から運がない方だったが…これ程までとは…。 ガックリと肩を落として、ため息をつく。 隣の桐生はいまだに俺を睨んでるし…(泣) 俺、お前に何もしてないのに。 何故、睨まれるワケ!? 誰かっ……誰か……。 俺と席を代わってくれ……!! 心の中で俺は滝のような涙を流すのだった…。 この世界にはいつからか、第2の性が目覚め、3種の性に分けられた。 それは『アルファ』『ベータ』『オメガ』と呼ばれる。 『アルファ』の性を持つ者は眉目秀麗で、運動神経もずば抜けて優れ、3つの性の中で圧倒的な存在感を持ち、他の性からも羨望される、生まれながらのエリートの事を指している。 俺からすれば、強引で高慢で性格悪く、自分勝手なナルシストな奴らだと思っている。 そんで、ベータは『アルファ』『オメガ』よりも数多く存在しているのだが、容姿、才能などのスペックは全てにおいてフツーレベル。いわゆる『庶民』の事を指していた。 そしてオメガは……。 この3種の中でも、かなり厄介な存在だ。 『アルファ』『ベータ』に比べると数も少なくて、希少価値的な存在であり、オメガを性に持つ者は男は外見が中性的な感じになり、女性はより女性らしくなる。 ………そこまではまだ、いい。 だってオメガは…男女共に妊娠、出産できるという、特異な体質を持っているのだ。 思春期後半になると、3ヶ月に1度のペースで自分の意思とは関係なく、発情期=ヒートが起こってしまう。 そのヒートが大問題で1週間もの間、体から強烈な匂い『フェロモン』を撒き散らして。 その強いフェロモンによって『アルファ』を引き寄せてしまい、更に厄介なのがそのフェロモンにあてられた『アルファ』は歯止めが効かなくなってしまうほどオメガを求めてしまうらしい。 そして『アルファ』は強い性衝動に耐えきれず。 オメガに対して自分の子を孕ませたい欲求へと変わり、執着する程。 オメガに夢中になってしまう……らしい。 うっ、……想像するだけで…恐ろしい。 どう考えても合意なしでヤられる、なんて。 犯罪だ……。 そう言いたいが。 社会的にはオメガのヒートのせいで『アルファ』は暴走した、との見解になってしまうから後味悪すぎる。 全てはオメガのせい。だなんて…。 有り得ないのだが、オメガという性は社会的な地位は最下層レベル扱いなのだ。 オメガの立場に立ったら…襲ってきた『アルファ』には責任はないのかよ!!とツッコミたいよな。絶対……。 ちなみに『ベータ』もフェロモンにあてられるものの『アルファ』と違い、その性衝動は理性で止める事も出来るそうだ。 なんだろね、この違いは……。 まぁ、深く考えても遺伝子レベルの事には俺にはよく分からない。 こればかりは仕方ないよな…。 生まれてくる子供自身が自分で遺伝子を選ぶ事ができないのだから…。としか言いようがない。 結局、自分の身は自分で守るしかないのだ。 話は戻るが『アルファ』はオメガを強く求めた時、気に入ったオメガを他の『アルファ』や『ベータ』に近付けさせないようにするため、オメガのうなじを噛む事によって『番』という名の契約をする事ができる。 番になると、オメガはヒートを撒き散らす事がなくなる代わりに、その番の『アルファ』以外とは契る事が出来なくなる。 ヒート中も番の『アルファ』にしかフェロモンは効かない上に、気の狂うようなヒートもだいぶ穏やかになるらしい。 それって……ビミョーに主従契約みたいなんだが……。 要は『アルファ』とセックスしまくる事でヒートが緩和とか……いいのか、それで……俺はツッコミたい。 いろいろとおかしいが、そこで一番怖いのが番になった『アルファ』が死んだり、飽きた、別のオメガに興味を持った、などの理由で『アルファ』から拒否や番関係を破棄された場合。 1度『アルファ』と番ってしまったオメガは最後……ヒートを抑える事が出来ず。 ヒートの度に苦しみ続けるという、呪いがかかる。 残された子供も、オメガ自身も社会的にも精神的にも苦しみ続けなければならない。 理不尽過ぎるだろ、オメガだけ……。 ちなみにどの性でも結婚し、子を生むことはできるが『アルファ』と『オメガ』の子は『アルファ』の中でも『優秀なアルファ』が生まれやすいため。 もし『アルファ』が愛のない結婚を望んで、無理矢理『オメガ』と関係して子を産ませた場合、出産した後は『オメガ』をないがしろにするやつらも、それなりに多く存在するのだ。 もう、ここまで来ると泥沼だよな……。 オメガにどんだけの試練与えんの、神様…。 それに片方が『ベータ』や『オメガ同士』でも変わらず。結局オメガは自分でヒートを抑えられないし『アルファ』を求める訳だから幸せになんてなれない。 そういう扱いを受け続けたオメガが殺人を犯したり、人身売買に関わったりと、事件を起こす災いになる……そういった現状に社会的にも良くない風潮は人道的ではないと政府によってオメガに対する対策が始まった。 そのおかげでオメガがヒートが入る前にヒートを抑える抑制剤が出来た。 抑制剤との相性もあるが、余程の事がなければ大体、適合するらしい。 合わないといっても、頭痛や睡眠不足、発熱くらいで症状も軽いらしい。 そして更に中学に入る前にもう一度、子供達は必ず性の適正検査を義務付けられるようになった。 中には後から違う性だったりする事もあるかららしい。 また話は戻るが………俺が通っている学校でも3つの性を持つ者が混在している。 オメガに社会的地位を確保する法律が提案され、ヒートする周期が分かるなら1週間休みをあげたり、抑制剤は学校でも常備してるし、ヒートしてしまって動けない場合は医師が駆けつけるまでヒート対策できる部屋までもある。 なのでオメガも分け隔てなく安心して学校へと通えるようになった。 まぁ、『オメガ』の性を持つ者の大半が社会的な地位が最下層だと自覚しているから『オメガ』だって事を隠してるし、学校側も『オメガ』の性を持つ者を公表はしない。 教師達と国から派遣されたオメガ対策医療従事者のみが知っている形だ。 ちなみに俺は……オメガだ。 両親、兄、共にベータなのに家族の中で1人だけ、なぜか異質な俺が生まれた。 ごく稀に『ベータ同士』や「アルファ同士』でもオメガが生まれる事があるらしい。 たぶん、俺がそうなのかも知れない。 それでも両親は俺を大事に育ててくれた。 中には養子、施設に引き渡す親もいるらしいが、うちは逆だ。 家族が俺を支えてくれて、特に兄なんて恥ずかしいくらいに大事にしてくれて。 家族から愛情たっぷり注がれたから、俺は幸せ者なのかも知れない。 特に兄が年を取るにつれて心配性になった。 中学生になる頃には前髪を伸ばして顔を見えないようにし、更にメガネをかけて武装するように、と言い出した。 悪い『アルファ』に目をつけられないように、としつこいくらいに説得された。 正直『アルファ』なんて、どうでもいいんだけどなぁ、俺は。 抑制剤さえあれば、1人でも生きていけるし。 桐生の席になる前はそう、思っていた。
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