逃げたのに捕まりました…(泣)

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逃げたのに捕まりました…(泣)

あれから4時間目の授業も終わり、昼食時間へと変わって。 朝のHRでの席替えイベントから続くイライラのせいで頭が痛くなった俺は、メガネの事は諦めて。 早く一人になりたくて。 お昼はクラスから離れる事にした。 いつもお昼は滅多に人が来ない実技教科棟の非常階段に行き、そこでのんびりと昼食を取り、授業が始まる15分前までゆっくり休んでいた。 なので、いつものようにキョロキョロと人がいないかどうか、確認する。 それから階段に1人、腰を下ろして。 フゥ……………普段より長いため息をついた。 ……あーあ、さっきは最悪だった。 突然、桐生に絡まれて。 訳分からない内にメガネを奪われたし…。 メガネは兄からもらった、俺の顔を隠す重要アイテムなのに。 それを桐生に取られるとは思ってなかった。 なぜ顔を隠さないといけないのか、よくわからないけど兄が言うには、俺のためらしい。 俺の安全のため、って…。 俺の顔、そんなにヒドイのか…兄よ。 俺、それなりに顔は悪くないと思っていたんだけどなぁ…。 ……まぁ、いいや。 どーせ、家に帰ればメガネの予備があと2つ、ある。 桐生に取られたメガネをイチイチ取り返そうとして関わる事がまず、億劫だ。 何しろアイツが簡単に返してくれるとは思えない。 それならばメガネはとっと諦めて。 さっさとお昼休憩した方がいいんじゃないかと俺は考えた。 じゃないとHPが回復しない。 HPだけじゃない、メンタルもだいぶダメージを受けている。 しかし、あのニヤニヤした顔、マジでぶん殴りたかった…!! 思い出して、怒りが込み上げてくる。 桐生よ……俺達、ほぼ初対面だよな…? 同じクラスでも喋った事もなければ、挨拶も交わした記憶もない。 名前は同じクラスだから知っている程度の、ただのクラスメートだったよな…? あんな消しゴムごときにキレやがって…。 言い返したらメガネ取るなんて……。 お前は小学生かよッッ!! 俺見てイライラするんならさぁ、他の誰かと席、交代すればいいのに。 言った手前、自分からは後に引けないタイプなんだろうか…。 見栄っ張りっぽいし……。 うわ、考えたらやっぱり面倒くさいなぁ…。 ────リュックからお弁当箱を取り出して一目散に教室から逃げ出した、あの時。 お弁当を取り出そうとした時点で、声をかけてこようとする桐生の気配に感付いた俺は早々と人混みをすり抜けた。 オタクをなめんなよ、桐生!! 某バスケ漫画の『ミスディレクション』なるチート術を使えば。 俺の存在はお前らに見えないんだからな!! お昼時間になると桐生の周囲には、いつの間にか人が集まり、桐生を中心としたグループが出来る。 今までは席が離れていたおかげで桐生とは接点もなく遠目から見ていたが。 あの集団に巻き込まれたら大変だ。 桐生を褒め称え、崇拝するなんざ、俺に無理だ。 だって桐生の全てが気に食わないwww 桐生が朝イチのホームルームの時間に『今の席に飽きたから席替えしよう』なんて、適当な事言っただけなのに反対意見もなく、あっさりと提案が採用された。 それって有りなのか…!? 『アルファ』とはいえ、高校入学してまだ2ヶ月も経ってないのに……クラスカーストが出来るなんて早くないか…!? しかも桐生の隣になりたいヤツが多すぎるから、公平に『くじ引き』で決めよう。となって既にイヤな予感はしていた。 そして、それは現実になってしまった。 俺、運悪すぎだろ…。 一番後ろの廊下側の席。 ……悪くない席だったんだ。 目立たない上に、授業が終われば直ぐ様、家に帰れる。そんでゲームやらアニメ三昧と趣味に時間が割ける。 なのに、その左隣がまさかの桐生蒼馬…。 俺が隣だと知った瞬間。 クラスの女子や桐生と親しくしたい男子から妬みやら羨やましげに見られて。 ものすごく居心地が悪かった事を思い出し、俺は顔を歪めた。 ハァ……。 俺、桐生になりたかったわ……。 そしたら……ウフフ♪アハハwwな学校生活を送れただろうなぁ……。 妄想して。 現実にまた、ため息が出る。 それもそのはず、桐生蒼馬自体が『アルファ』の中でもかなりのハイスペックな人間だった。 桐生の見た目はモデル並みに整っていて、サラサラの襟足の長い薄茶の髪で、少し切れ長のこげ茶色の瞳、背は俺よりも高く、細身なのに程よく筋肉がついていて。 ナヨナヨしている俺とは大違いだ。 俺なんて……背は170もない。 髪は肩まで伸びて真っ黒の貞子似のうっとおしい前髪、目も黒い。肌は自宅警備員レベルで学校以外は外に出ないから、超色白。 まさにザ・不健康、な感じwww 自分をディスって、軽くへこんだ。 ………仕方ないじゃないか。 俺は家にこもるのが大好きなヒッキーで、アニメとゲームが生き甲斐、外出ると人混みでHP減るし、気も滅入る。 俺はかっこよくないし、努力したって桐生のようなイケメンには絶対に追い付けない。 それに、だ。 桐生のすごさは外見だけじゃなかった。 政治家や大企業が連なる桐生グループの三男ときている……。 女子達が桐生の女の座を虎視眈々と狙っているのは誰の目を見ても明らかだった。 男子だって、ベータなら仲良くなって桐生グループとの繋がりを持ちたい、アルファなら父親の会社の傘下だったり、取引先だったりするから、桐生に取り入りたいって、とこだろう。 しかし、俺の家は超庶民。 父は普通の会社員だし、母はパート従業員。 兄貴は来年から就職活動に勤しむ、今はお気楽な大学生。 庶民の暮らしで満足してるから、桐生に取り入る必要もない。 隣の席なんて、もう、どうだっていいんだ。 むしろ、1人で座りたい。 だからこれ以上、俺を巻き込むな。 俺は目立ちたくない。 学校生活を静かに暮らしたいだけ。 もう本当にほっといて欲しい。 ハァ……と深い溜め息を吐いて、お弁当のフタを空けた。 まずは栄養補給せねば。 また戦場=クラスに戻らなければならないのだから。 『腹が減ったら戦はできぬ』って名言があるだろ、だから俺も栄養チャージして、次の授業=戦に備えなければならない。 箸ケースからマイ箸を取り出して、まずは一番最初に、だし巻き玉子から頬張った。 ん、ウマイ!! 一番初めに食すのは俺の中では玉子焼きだな。 俺お手製の手作り弁当、マジでウマイw 自画自賛で頷いた。 ボッチ飯の俺は、食堂や売店、人が多い場所は気疲れするし、人が多いと緊張してしまう。 なのでハードル高いから、飲み物までマイボトル持参してる。 それくらいに人嫌いが加速している。 ……オメガだなんてバレたら、何が起こるか、分からない。 いくらオメガに救済法案が可決したって。 アルファが権力行使すれば、オメガは言いなりになるしかない。 だってオメガにとって、アルファは『特別』なのだから。 いかん。 桐生の事を考えたらメシが不味くなる。 楽しいことを考えよう。 うん、そうしよう。 モグモグと味わいいながら、次はおにぎりを食べる。 そして次にタコさんウインナーを食べようと、箸を進めた所で。 目の前でウインナーが宙に浮いた。 え? ウインナーが宙に浮いた!? 驚いて宙に浮いたウインナーを見ると、イライラの元凶、桐生蒼馬がそこにいた。 「おいっ、このクソオタク!!なんでこんな見つけにくい場所で飯食ってんだ、ボケがッッ!!」 いきなり登場した桐生に。 俺は驚いて言葉を失った。 「べ、別に……どこで食事をしようが、俺の勝手だろ…?」 突然の桐生の登場に驚いたが、ここは冷静に。と塩対応で返事を返す。 ナイスぅ~、俺!! するとその対応にムッとしたのか、食べるはずだったウインナーを桐生のヤツが適当に周辺に投げ捨てる。 あぁっ!! お、俺の、ウインナーが……!! 直前に口にするハズだったウインナーをポイ捨てされた俺は心の中で悲しんだ。 さらば、俺のたこさんウインナー…。 食べられなかったけど。 お前の事は忘れないよ…。 投げ捨てられた悲劇のウインナーの最後を見届けた俺は、目の前の桐生を冷たく睨みつけた。 ……食べ物を粗末にすんなっ!!って。 親から教えられた事がないのか、お坊っちゃまは!! そんな俺の恨みも知らずに。 桐生はギリッと歯ぎしりした。 「ハァ?探す手間がかかんだろ!!一ノ瀬、お前っ、オレの休憩時間を返せ。オタクにメガネ返せって杉崎や篠田にしつこく非難されるし…!お前に返すしかねーだろ!!」 そう言って急いで追いかけてきたのか、息を切らしながら、桐生が俺にぶちギレてる。 あのなぁ…。 俺はそれどころじゃないんだ。 神聖な俺の聖域が……桐生にバレるだなんて。 そっちの方が大ダメージだ、最悪…。 これからお昼はどこで食べるか場所探しをしなきゃならないじゃないか……(泣) しかも、メガネ返しに来た、だと? それなら時間は昼までにあっただろ!! 今更、そんな話すんなよ、迷惑だ。 「はぁ………でも俺、家にも予備あるんで。それ、桐生君にあげるよ。だからもう、この話は終わりにしよう?じゃあね、桐生く…「んなモンいらん!!それに返さなくていい?何勝手に決めてんだ、テメー!!」 やんわり『それ、もういらないから』と断ったのに。 納得がいかないのか、キレる桐生に朝からの苛立ちがずっと治まらない俺。 俺を睨む桐生と、負けずと桐生を睨み返す俺。 しばらく睨み合っていたが、それすら面倒だと感じた俺は引き際よく、弁当を素早く片付け、その場を離れようとした。 「コラッ!!話は終わってねーぞ!!勝手に逃げんなっ!!」 また逃げようとする俺にイラついたのか、キレた桐生に手首を捕まれた、その瞬間。 手首から電流が身体中に駆け巡って。 俺の体は勝手に大きく跳ねた。 は?……なっ、な…!? 電流の後には説明できない、何かが。 身体からジワジワと熱く疼いてくる。 その熱さと疼きに。 ショックと驚きで頭がパニックになって何も考えられない。
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