バターサンド

リッカ札幌の皆様

今晩は満月がきれいです。
ワールドカップ、一試合も見てません。私には浜松女学院での戦いがあるんです。人の試合なんか見てる場合じゃない。
うちにはテレビがありません。あるわけがありません。電気が通っていません。Eメールが当たり前の21世紀に手紙なんか書かせてしまって申し訳ない。
この手紙も、月明かりを頼りに書いてます。東京の夏は厳しく、朝から晩まで水をかぶって暑さをしのいでます。
札幌を離れ、東京で一人暮らしを始めて三ヶ月が過ぎました。もうすぐ夏休みですが、サッカー部の練習があるので帰れません。
今日は月が明るすぎて見えづらいのですが、ちょうど空のてっぺんに北斗七星が輝いています。ひしゃくの水をすくうところを五つ分伸ばしたところに北極星があります。
みんなのいる札幌があの下にあるのだと思うと、なんで自分はここにいるんだろうと悲しくなります。
それにしてもあんたら、言いたい放題だな。
カタ、私は札幌にいるみんなの気持ちを背負ってここに来た。私がダメになったら道内じゃ一番でも内地じゃ通用しないって言われる。そしたら道内のサッカー少女の夢を壊してしまう。だから言ってやったんだ。
コオリ、体を大きくするのも練習のうちだ。いい選手はみんなよく食べる。人間の体は食べたもので作られるから。もっと食べてもっと大きくならないと。私は北海道になってやるんだ。
ミズ、あの試合は相手がなまら荒っぽかった。私だけじゃない、何人も削られた。私も肘鉄で前歯を折られたけど、ここで引いたらさらにやられる。二度とさせるかと思って泣くまで追っかけ回してやった。ちなみに今はマウスピースを作ってもらった。
ザラメ、あんたは何時代の人間だ。こじらせすぎだろ。センターバックは格で守るポジションだ、チョロチョロしてたら周りを不安にさせる。だからどっしり構えて動かない。それをサボりなんて言われたら心外。
コナ、私は物を大切にしてないわけじゃない。けど少しでもいいものがあったら試したいし、穴が空くまで使ってる。それだけ打ちこんでるんだよ。最近のウェアやスパイクがヤワなだけで。
ツブ、あんたのは手紙じゃない。怪文書だ。 謙虚なのは大事だけど、萎縮したらできるもんもできなくなる。私は葛飾プリンセーザに落ちて浜学に来た。あいつらにだけは絶対負けたくない。全存在を賭けてあいつらを倒す。
ワタ、私はあの人に試合に見に来て欲しかったんだよ。他の先取はみんな、身内や友達が来てくれる。けど私には誰もいない。誰か一人でも見に来てくれたら、今よりもっと強くなれる。そんな気がしたんだ。
バターサンド、美味しゅうございました。クッキーもバタークリームもラムレーズンも変わってなくてほっとしました。賞味期限に気をつけながら、少しずつ食べるつもりです。
手紙はもういりません。バターサンドだけでいいです。
みんなに会いに、北海道に戻りたくなるから。

大熊七星