決意

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決意

日本がこの戦争に参戦したのは明確な利益目的が存在したからである。 当時日本、大日本帝国は中国での勢力拡大を狙っていた為この大戦は願ってもいないチャンスであった。そして大戦によりもたらされたものはそれだけに留まらず、『大戦景気』と言う形で日本へ好景気をもたらすきっかけともなった。本土が戦火圏外だったというのもあり商品輸出の急増によってもたらされた好景気は主に重化学工業に影響をもたらし、そこに目を付けるものは少なくなかった。 銀行経営を主としている華族もまた然り─── 「いやぁ、はっはっはっ! 流石は近衛殿、そういった話がお上手でいらっしゃる。」 「何を仰るか…中院(なかのいん)殿ともあろうお方が。この大戦時に鉄鋼業で成功を収めた方の言葉ではあるまいよ。」 「はっはっはっ、そんなに褒めても何も出ませんぞ。……ところで、今回はどのようなお話で?融資の件なら先日承諾したはずですが──」 「なぁに、もっと個人的な話ですよ。我々どちら共に利益のある話です……確か中院家には20歳になる御令嬢がおられましたな?」 「あぁ、成程。確かにそちらの跡取り殿は大層出来がいいと聞く。だが、もう結婚なされているのでは?しかも家には綺月(はずき)1人しか娘はおりません、いくら女とはいえうちの跡取りですからそう簡単には──」 「心配はご無用。仰る通り長男の聡はすでに結婚しているが、家には倅が二人おりましてな。次男の清一郎は土いじりなどと貴族の品格を落とすような真似ばかりするが、私に逆らったことは無いのですよ。この清一郎を是非中院家の婿として迎えて頂けたらと思っているのだが。」 「それはそれは、納得致しました。そういう事ならば喜んで。家の綺月も喜ぶことでしょう。」 煌びやかな食堂で長テーブルを挟んで政略結婚の段取りを進めていく男達は、ワイングラスを片手に薄ら笑いを浮かべた。
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