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「お帰りなさいませ、坊ちゃん。」
「ただいま、兄さんは?」
「聡様はもうお戻りになられていますよ。先程ディナーが始まりまして、坊ちゃんをお待ちになられてはと申したのですが……。」
「いいよ。むしろ始めてもらっていた方が都合がいい。」
自分のせいで兄を待たせてしまったとなれば、機嫌が悪くなるのは父よりも母の方だ。まぁ遅れた時点で気分は害しているだろうが、その相手は兄がやってくれる。
鞄を黒部に渡した後、明るい談笑が聞こえるダイニングの扉を開いた。
中では兄が仕事の話を母に聞かせているところだった。
「──それで、聡さんその後はどうなったの?」
「上手く機嫌を直して貰えまして、無事進めることが出来ました。」
「まぁ!流石聡さんねぇ──あら、」
「……ただいま戻りました、遅くなってしまい申し訳ありません。」
こちらに気付いた母達に謝罪を述べる。
「清一郎さん?こんな時間まで何をしていたんですか。ちゃんとディナーまでには戻るように言っていたでしょう?それなのに──」
「まぁまぁ、母さん。いいじゃありませんか、清一郎にも都合があるんですから。」
「でも、今日はせっかく聡さんが帰ってきた日だって言うのに──」
「俺だって仕事が忙しくて約束を果たせなかったことがあるじゃないですか。まだディナーは終わっていないんですし、清一郎も謝っているでしょう?」
「……聡さんがそう言うのなら。清一郎さん、早くお座りになって。」
「ありがとうございます。兄さん、おかえりなさい。」
清一郎は兄の向かいの席に腰を下ろした。父が上座に座っており、その右角に母、兄の順なので不自然に父の左角を空けることになるのだが、清一郎は昔から父から離れたこの下座に座っている。遅れたことへの咎めが父からなかったことに胸を撫で下ろしながら、清一郎は運ばれてきた料理に口をつけた。
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