高慢なフクロウ

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高慢なフクロウ

東の森にカラスが帰ってきたとき、勉強会が開かれます。カラスは人間に近いところに住んでいて、人間というものに詳しいのです。 カラスはさっそく、カーと鳴きました。 「さてさて、オレが森に帰ってきたのは全く久しぶりだなぁ。今日は、みんなに人間が言うところの、七つの大罪について勉強してほしいと思う。」 フクロウが言いました。 「ほう!傲慢、憤怒、嫉妬、強欲、色欲、暴食、怠惰の7つですな。」 カラスはアホーと鳴きました。 「阿呆のフクロウめ。みんなが知っているようなことをオレがわざわざ言いに来るかってんだ。10年も前に7つの大罪は変更になったんだぜ!」 「ほう!それで、新しい七つの大罪とはなんですかな!人間の罪という概念は我々にとっても興味深い!森林破壊が入っていると嬉しいが」 小リスの兄弟もお喋りに参加しました。 「動物の誘拐や虐殺も入れて欲しいものだな!」 「動物実験はもちろん七つの大罪なんだろうな!」 カラスはたっぷりと間をとってから言いました。 「聞いておどろくなよ。まずひとつは、人体実験だ。」 みな、一様に口を閉ざしました。森の動物たちには、人体実験というものが想像できなかったのです。 キツネが言いました。 「おいらの仲間がときどき、人間の反応をみようと、化かしてみせるのは人体実験なのかね?」 カラスはアホーと鳴きました。 「阿呆のキツネめ。そんなものは、からかいと呼ぶのだよ」 ライオンが言いました。 「実験という言葉の説明が必要だ。」 カラスはまた、たっぷり間をとって言いました。 「例えば、病気か怪我でもう死んじゃいそうな人間がいるとする。どうせ死ぬならと知識人が色々試してみたのが始まりで」 小リスが口を挟みました。 「なんだかとってもいい話!」 「知恵と勇気のお話みたい!」 「阿呆の小リスめ。最後まで話を聞きやがれ。そうだなぁ、例えば、そうだ。コウモリに4羽の子供が生まれたんだって?」 「さっすがカラスは耳がはやいなぁ!あっはっは!スーパーかわいいぜ!」 「なんらかの事情で、お前さんは子どものエサが満足に得られないとする。ところかオレはどっさりもっている。子供にひもじい思いをさせたくないお前さんは、オレに餌を分けて欲しい。そういう状況でオレはお前さんに、もしもお前さんの親友のライオンに、この死ぬか生きるかわからない薬を騙して飲ませてくれたならば、エサを好きなだけやるという。そうしたらお前さんはどうする?」 小リスが言いました 「なんてひどい!」 「残虐だ!」 カラスはカーと鳴きました。 「まぁ、これはものの例えだ。でももしも、例えば、西の森にいる顔も知らないライオンでも構わないとなれば、そっちの方がお前さんの罪悪感も薄らぐというわけだ。」 「ほう!なるほど。それが七つの大罪と」 「そういうことだ。全く、人間どもは胸くそ悪いことを考えやがる。用心するに越したことはないぞ。」 「それで、他の大罪はどんなもので?」 ウサギは興味が湧いてきたようです。 「ふむ。ひとつは。遺伝子改変だ。」 「なんだって?」 「例えばオレがカラスとして生きているのはカラスの遺伝子を受け継いでいるからだ。」 皆がぽかーんとしているので、カラスはもう少し噛み砕いて説明することにしました。 「人間は毛皮欲しさに、動物を狩ることもあるだろう。遺伝子をうまくいじくれば、生きながらにして毛皮だけたくさん採れる。そういう動物をつくれるかもしれないのさ。」 「つまり?」 「もしオレの奥さんが人間に捕まって遺伝子を変えられてしまったら、俺の子供は、カラスとして生まれない可能性があるってことさ。」 ウサギは耳をたたんで震えました。 「なんて恐ろしい怪談なんだ!全くカラスの話は肝が冷えるよ。」 カラスはアホー!と鳴きました。 「阿呆のウサギめ!現実は小説よりも奇天烈なことがあるのだと知りたまえ!」 ライオンが言いました。 「ところで、今までの七つの大罪はどうなったんだい?」 「極めて人間らしい感情を罪とよぶ。なかなか、皮肉がきいてて面白かったよねえ。あっはっは!」 「ふん、ようやく出来の良いロボットができあがりそうだから、人間をロボットらしく矯正する必要がなくなったんじゃないか?全く権力者ってのは、都合の良いものだよなぁ。」 カラスがそう言って飛び立ったので、今日の勉強会はこれでおしまいとなりました。
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