虚飾の孔雀

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虚飾の孔雀

次の日、またカラスがやってきたので、勉強会が開かれました。 「ようし、今日は七つの大罪のうちの、貧困と過度な裕福さについて教えてやろう」 ライオンが静かに言いました。 「昨日お前は、コウモリを使って俺で実験するという話をしたが、貧富の差がなければそういうことも起こらないというわけだな」 カラスは羽を広げてちょっと気障ったらしくこう言いました。 「怒るなよ。あくまでも、もののたとえだ。それに、昨日のあれはちょっと説明不足だったかなと思って、反省している」 ライオンが続きを促すようにジッと見たもので、カラスは言葉を続けました。 「実験ってのは、倫理性が大切なのさ」 フクロウがほう!と言いました。 「ほう!良心なき学識、道徳なき商業、人間性なき科学のことですね!」 カラスがアホーと鳴きました。 「阿呆のふくろうめ!そいつはマハトマ・ガンジーの七つの社会的罪だろうが!いいか、実験ってのは、予測が困難な物事について、とにかく知りたいからということでとりあえずやってみるってことだ。一方で研究ってのは学問的に深く考え、調べ、明らかにすることだ」 ウサギが小首をかしげたのをみて、カラスは言葉を続けました。 「つまり、どうなるかわからないから試しにやってみよう。ということと、これをやったら確実にライオンが死ぬだろう、もしくはライオンの喉の調子がよくなるだろう、ということを分かって薬を飲ませるのでは意味が全く違うということさ!」 ライオンが慌てて言いました。 「つまり、予測が立っている分には、罪ではないということだな。」 フクロウが言いました。 「ほう!なるほど。つまり、毒か薬か分かってから、仲間に飲ませろということですな」 カラスがカーと鳴きました。 「さて、それでは貧困と過度の裕福さについてだが…」 「あら、ごきげんよう」 孔雀がやってきました。孔雀はカラスが来ているのを一目見て帰ろうとしました。孔雀はいつも真っ黒な装いのカラスを見ると、口論せずにはいられないので、なるべく顔を合わせないようにしているのです。 コウモリが笑いながら言いました。 「孔雀も参加したら?君に関係のある話だよ?あっはっは!」 「過度の裕福さですって?おしゃれに限界を決めるなんてナンセンスよ。人間界で何を学んできたのかしらね。パリにでも飛んで行って見聞を広げてくれば?」 カラスはひときわ大きく、アホー!と鳴きました。 「阿呆の孔雀め!オレはお洒落ではなく、罪悪というものについて学んできたのだ。罪を学ばずして、どうしてより良い生き方というものが考えられるだろうか!安心しろよ、てめえの羽飾りに文句をつけようって話じゃあない」 それで孔雀は黙って、動物たちの輪に入るように座りました。 「まず、過度の裕福さだが、人間というやつは、金があれば狩りをしなくても、木の実を集めなくても、その辺にいるやつから買う事ができるわけだ。最悪、挨拶をしなくても助け合いに参加しなくても、金を出せばなんとかなるわけだ。そうなると、労働の価値というものがわからなくなって、本来あるべき暮らしから大きくはずれてしまうんだよ。」 「つまり?」 「あんまりにも金がありすぎると、ダメ人間になることがあるってことさ」 フクロウが唸りました。 「ほう!つまり、生きている限り、自己研鑽に努め、他者の役に立つべしということですな!いやあ!すばらしい!」 孔雀が言いました。 「ふうん?その理論でいけば、貧困になれば頑張れるから、貧困は良いってことなんじゃないの?」 カラスは羽を広げて気障ったらしく言いました。 「ははん、貧乏と言うものを知らない奴の言いそうなことだな」 孔雀はムカっときたが黙っていました。なにせ、カラスに口で勝てた試しがないのです。 「オレが人間の近くまで飛んでいって、生きていけるのは、そこそこ飯が食えるからだ。」 孔雀はわけがわからない、という顔をしました。 「ついでに、オレたちがこのように、みんな仲良く、勉強会なんてことができるのも、そこそこ飯が食えて、みんなそれなりに腹が満たされて、今日の夕飯の心配もないからだ」 フクロウとライオンはカラスの言いたいことが分かった。コウモリは幼い子どもにエサを食べさせてやっていた。その様子を見ながら、カラスは得意げに言いました。 「おい、もしライオンが限界まで腹ぺこだったなら、リスやウサギはすぐにここから逃げるよな?」 「ほう!つまり、貧困は争いのもとだと」 「その通り」 コウモリは子どもから目を離さずに言いました。 「いやあ、しかし皮肉なものだよなあ。お金なんていう、貧富の差が生まれそうなシステムを考案した人間が、富も貧しさも罪深いと言うなんてさ。あっはっは!」 孔雀が言いました。 「あら、美しさに値段をつけるという点については、素晴らしい発明だと思うわ。なんにせよ、そこそこの豊かさは必要ということには同調するわね」 「さて、勉強会はこの辺にして、明日の飯の蓄えでもつくりますかね。」 カラスがそう言って飛び立ってしまったので、今日の勉強会はこれでおしまいになりました。
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