ウサギの色欲

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ウサギの色欲

ライオンは森の西の方に行きました。カラスに出された宿題について、コウモリに相談したくなったのです。 少し欠けた月のきれいな夜でした。薄い雲が月にかかって、それが抜けて。そうやって空を眺めていると、草が揺れる音がしました。 ライオンはやっとコウモリが来たのかと思って、「愛って罪なのかなぁ」と言いました。すると、とっても可愛い声がしました。 「愛ってとっても素晴らしいものだよ。罪なものか!」 後ろを振り返って見ると、ウサギがいました。ライオンは気まずい思いをしましたが、口に出してしまったものは戻せないので、説明することにしました。 「カラスに、愛は罪なのか、というのを聞かれてさ。もしよければ、愛とは何か教えてくれるかい?」 ウサギは、ニタニタ笑いながらこちらに来ました。 「いやぁ、おいらは嬉しいよ。愛について考えるなんて、なんて素晴らしいことだろう。同志、ソウルメイト、いや、友と呼ばせてくれ。愛という甘い酒に酔った、酒場の友よ!あぁ、そうだ、ちょっと待っていてくれ。いいものを見せてやろう」 厚い雲が月にかかって、それがまた抜ける頃、ウサギが木で編んだカゴをくわえて、帰ってきました。 「みてごらん、これが愛の結晶さ!」 「これは手紙かい?」 「そうとも、西の森の黒ウサギとの愛の結晶さ!」 ウサギは茶色い封筒を一つ引っ張り出すと、ライオンに差し出した。 「さぁ、これを声に出して読んでおくれよ!」 ライオンはウサギに言われるままに従った。 「あぁ、東の白ウサギよ。 君の瞳は、地に落ちる間際の太陽のよう 君の毛皮は、夜に浮かぶ月のよう 君を思うと、いつでも東から太陽や月が代わりばんこにでてくるんだ 君のいない世界は月の浮かばぬ夜のよう 心細くて灯りをともしてみるけれど、それは君の代わりにはならない 君のいない世界は太陽の登らぬ昼のよう 陽が差さぬのにどうして朝が訪れようか 僕の愛する白ウサギ、どうか、いつも元気でいておくれ」 「どう!?」 と白ウサギが聞いてきたので、ライオンは思ったままを言いました。 「読んでいて恥ずかしくなった。他人の恋文など読むものじゃあないな。」 白ウサギは得意げに鼻を鳴らしました。 「ふぅん。誰がなんと言おうとも、おいらにとっては、これが宝物なんだ。これを読むと、おいらは、もっともっと素敵な詩を書いて、送ってやりたいと思う。おいらにとっては、西の黒うさぎが世界の全てで、西の黒うさぎにとってのおいらもそうでありたいんだ。」 バサバサっと羽音がしました。ライオンは、今度こそコウモリが来たに違いないと思いました。それで、「これを聞いて、君はどう思うんだい」と言いました。 「阿呆のウサギめ!そんなだから、愛は罪と言われるんだ。恋だの愛だのに溺れている連中は、相手と二人きりの世界に浸って、てんで周りが見えていない。客観的に見れば、気恥ずかしいポエムのやりとりに胸を踊らせ、気を高ぶらせ。周囲から白い目で見られていることも気づかない。せめて自分の目が見えていないことを自覚しやがれってんだ!」 ライオンはびっくりして木の上を見ました。そこにいたのは、コウモリではなくカラスでした。ライオンは気まずい思いをしながら、ウサギを見ました。 ウサギは下を向いて、少しいじけたようでした。 カラスは言葉を続けました。 「それでライオン、愛は罪だと思うかね?」 「どうかな。罪だとしても軽いほうなんじゃないか?もし、恋心がきっかけで何か集団に迷惑があったとしても、俺は許してやろうと思うし、大切なことは止めてやりたいと思う。人も動物も、何の罪を犯さずには生きられない。小さな罪は受け入れ、許しあっていくのが本当だと思う」 カラスは、ニヤっと笑いました。 「なかなか、いい答えだ」 「それで、お前は何のようでここにきた」 「あぁ、お前ばかりに宿題を出したのでは不公正かと思って、俺も宿題をしに来たんだよ。」 ライオンはあくびをしながら言いました。 「あぁ、カミサマ気取りってやつか?お前も気にするタチなんだなぁ。」 ウサギはニヤニヤ笑った。だって、普段あんなに偉そうにしているカラスが不安そうにしているんだもの。面白いったらありません。 カラスは皮肉な笑みを浮かべて言いました。 「どうだい?オレはカミサマ気取りだとお前は思うかい」 バサバサっと羽音がしました。今度こそコウモリがやってきたと思って、ライオンは「君はどう思う」と言いました。 「ほう!カミサマとはまた傲慢な。せめて、森の主とか、長とか、そういうものにとどまるべきですな。カミサマというのは滅多にお目にかかれず、口にも出さないからこそ神聖なわけで、カミサマなんてものがしょっちゅう現れていては、それはもう俗っぽくってカミサマとは呼べません」 ライオンはまた、しまったと思って俯きました。やってきたのはコウモリではなくフクロウだったのです。ライオンは気まずくなって、こう言いました。 「悪い、カミサマではなく、カミサマ気取りについて話している」 「ほう!カミサマ気取り!これはまた難解な」 ライオンは大げさにあくびをして、「今日はもう眠たいから、明日にしよう」と言って帰ることにしました。
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