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キツネの強欲とカラスの傍観
猿と狼の根城は、岩山にありました。
はじめに猿がこちらに気づきました。狼が顎を向けると、猿の群れは左右に分かれて、その中央を、小リスを中心とした一軍が通りました。狼がゆったりと座る岩の前までやって来て、一軍はそこでやっと止まりました。
バサバサっと黒い羽音がしました。狼の根城は何度来ても、とっても恐ろしい雰囲気があります。小リスの兄弟が震えた声で言いました。
「やい狼!」
「やい狼!」
「父さんの頭蓋骨を返せ!」
「墓をつくりたいんだ!返してくれ!」
狼は、小リスを睨みつけ、低い声でこう言いました。
「お前が最初にここにきたとき…、お前はたった1人で、弟も連れずに来たな…」
小リスの兄さんは、足を震わせていました。
「いまや怠け者のクマまで動かして…デカくなったもんだな」
小リスはもう、泣きそうでした。
「俺は、猿どもの知らせを受けて、リスの臨終に立ち会った。なにせ、誰もいなかったものだからな。死ぬ時に、そばに誰もいないというのは、心細いものだ…」
狼は空を見上げました。
「そのリスは、子どもたちがあんまりに食べるのに夢中で、争いを引き起こさないか心配していた…。それで、俺は、お前の代わりに小リスを立派に育ててやると約束してやった。そしていま、約束は果たされた…」
狼は、一匹の猿を見た。その猿は、うやうやしく、しゃれこうべをかかげ持つと、小リスの目の前に持ってきた。別の猿が、紫の座布団を持って来て、その座布団の上に、しゃれこうべが置かれた。
「持って行け。俺にはもう不要だ」
帰り道、キツネが言いました。
「小リスよ、お前はすごい力を持っていたじゃぁないか。」
「お、おれが?」
「あぁ。お前のその、小さくて可愛らしい見た目。それは武器だぞ。ライオンやクマは、お前のようにはまわりを頼れまい。お前のような小さいものが頼むからこそ、みんな手を貸してくれるんだよ。例え、おまえが自業自得だと思っていてもだ。」
小リスの弟は紫の座布団ごと大事なものを運んでいるので、顔まで隠れて表情がわかりません。小リスの兄さんは、キツネの方を見て言いました。
「キツネさん、もしかしてだけど、ぼくに嫉妬してる?」
「あぁ、俺は、実はもう少し、可愛らしく生まれたかった。」
「あはは、変なの!」
「変なもんか。キツネはな、大変なんだぞ。人間に親切にドングリを運んで、銃で撃たれた奴もいるんだ。小リスだったら、いきなり撃たれることはあるまい。」
「あはははは!」
「それどころか、北の森では小リス専用の道まで作ってもらえるらしいじゃねえか。俺たちは北では害獣呼ばわりでエサももらえないってのに!」
「あはははは!ごめん、キツネさん。ぼくたち、いま、どんな話を聞いても楽しくってたまらないんだ。だって、どんなにしても一生取り戻せないと諦めていた父さんを取り戻して、それはただのきっかけだけど、みんながぼくらの力になってくれたこと、父さんがぼくらを心配してくれたこと、ぼくらが父さんに認められたこと、とっても嬉しくてたまらないんだ!」
「おいおい泣くなよ!俺が泣かせたみたいじゃないかよ!」
小リスの兄弟はボロボロと涙をこぼしているのに気がついて、キツネは辺りを見渡しました。誰もいないようですが、誰かにみられているような気がしました。こういう勘は良く当たるものです。
「あああ!俺は森のみんなには空気の読める親切なキツネって思われたいんだ!だから俺といるときに泣くなよ!頼むから!」
キツネがそのとき、とっても慌てていたことは、しばらくの間、東の森で話題になりました。
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