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カラスの達観
ライオンはやっぱりコウモリに会いたくて、西の丘にやってきた。
人が来るのをのんびり待つのは長いもので、オレンジの夕日が沈んでいく。
バサバサっと羽音がした。ライオンは木の上を見た。
「大分気に病んでいるのかい」
「カラスか。なんのことだか」
「狼と小リスのことさ。狼は大分、誤解されちまっていたからなあ。」
「俺に何ができたのかな」
「はっ!ライオンはどうも、因果の全てを自分自身に帰結させちまう癖があるらしいな」
「みんなそうなんじゃないのかい」
カラスはアホーと鳴く代わりに、夕日を眺めて言った。実のところ、カラスはライオンを気に入っているのだ。
「そんなことはないさ。因果の全てを自分に帰結しようとするのはね、特別優しくて、深く物事を考える。そういうやつだけなのさ。」
「へえ。」
「で、なんでライオンのことをそう思うのかっていうと、俺もそういうところがあるからだ。でもお前ほどじゃあない」
「へえ?」
「俺がいつも傍観者を決め込んでいるのはね、自分が関わると、当事者のようになりきってしまうからなんだ。そうなると、誰が主人公なんだかわからなくなっちまう。」
ライオンは少し興味が湧いてきた。
「ああ、小リスと狼の件かい?」
「それだけじゃあない。人間界で起こるいざこざもそうだ。俺は自分が介入したくなるのを防ぐために、傍観者を決め込んでいるのさ。まあ、ときには、突っついてやることもあるがな。」
夕日が沈みきって星が出てきた。バサバサっと羽音がして、コウモリがカラスの向かいの木の枝に止まった。
「いやあ、お二人さん、仲が良いねえ。実はおいら、おたくらは気が合うと踏んでいたんだよ。あっはっは!」
「久しぶり」
ライオンとカラスは少し嫌味を込めて、挨拶をした。気にしない風を装って、コウモリは明るく言った。
「いやあ、お二人さん。ぜひうちの巣穴に来てくれないか?プラネタリウムをつくったんだ」
カラスはあくびをした。
「俺は遠慮する。最近の都市部の人間ときたら、あれで満足して本物の星空というものを忘れてしまっている。」
ライオンはコウモリを見てうなづいた。
「俺は見に行くぞ。ぜひ見たい」
コウモリの巣穴は、黄緑の細かい宝石があちこちが光り輝いていて、まるで数万の星が瞬く、本物の満点の星空のようだった。
「これは他の誰かに見せたのかい」
「コウモリ以外じゃ、君がはじめてさ。そして、他のやつに見せる気はない」
「どうして」
コウモリは汗をぬぐいながら言った。
「もともと、子どものためにつくったんだ。だから、あちこちに見せるのは初心を忘れるというものだ」
「そうかい」
「それに、正直、おいらの手作りの拙い作品の良さをわかってくれる奴ってのは、以外に少ないのを、おいらは知っている」
ライオンは洞窟を見た。こんなにあちこちに、何百もの欠片を散りばめるのはどれだけ大変だっただろうか。これだけの光る石を探し当てるのがどれだけ大変だっただろうか。それを思い浮かべれば、どうしてこれを褒めずにいられようか。
ライオンは涙ぐんでいた。
「おいおい、泣くなよ」
「俺は感動している。」
「そうかい!ありがとうな。これ、おいらの奥さんとつくったんだ。だから、もし、あのフクロウや孔雀のやろうが、こいつをけなしたら、俺は泣きそうなくらい悲しくなっただろう。なのにおまえが泣いたら、台無しじゃないか」
「そうかな。たぶん、カラスの野郎は泣き顔をみせたくないから、来なかったんだろうぜ」
「ははは。」
ライオンとコウモリは、しばらく洞窟のプラネタリウムを楽しんだが、しばらくしてコウモリの子が泣き出したので、ライオンは遠慮して家に帰った。
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