序章

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序章

月の領主(旧編)  これは、遥か昔の物語である。その時代、ヒトの型をした知的生命体は『ヒト』のみではなく、亜種と呼ばれる『ヒト』も存在していた。 彼らは互いを認めながら共存し、時にはいがみ合いながらも、今となっては完全に失われてしまった優れた文化を発展させていた。  また、当時から神への信仰は存在していたが、それすらも今となっては完全に失われてしまったものとなっている。 唯一の手がかりは、私たちの太古の記憶の中にのみ存在している。しかし、それもまた断片的なものとなっている。  この物語を始める前に、当時の人たちに深く信仰されていた『神々の時代』と呼ばれる経典から、その一節をここに記す。  『神々の時代』  私たちが想像するよりも遥かな昔、私たちが神々と呼ぶものが光と闇を用いて、私たちが住む多くの空間を創造した時代。  その数多の空間の根源とも言える光と闇の力を、神々の意向と反し、自らの力として使用するものが現れた。  そのものたちは、自らの力をより強力なものにしようと考え、光の力を使うものは光と融合し、闇の力を使うものは闇と融合した。そして、そのものたちは神々をも凌ぐ力を持つようになった。  しかし、そのものたちはそれだけでは飽き足らず、多くの神々の力とも融合し、自らを光の神・闇の神と称するようになった。しかし、それでもなお、そのものたちは神と呼ぶにはあまりにも未熟な存在だった。  やがて、神と称するものは、自らの力を誇示するために小競り合いを始め、しだいに神々が創造したすべての空間を巻き込む大規模な光と闇の争いへと発展した。    同じコインの裏と表が互いに共存し依存しているように、激しさを増すことはあっても、それが静まることはなかった。  争いが激化する中、残った神々は空間を再編成するため、空間内の全てのものを破壊する目的で光と闇との争いに挑んだ。  全てのものを破壊しようとする神々、それを阻止しようとしつつも互いに争いを止めない光の神と闇の神、永遠に近い時が流れてもその争いに決着がつくことはなかった。  永遠に続くかと思われたその争いに、あるとき意識を持った“無”が現れた。  “無”の目的は文字通り全ての根源ともいえる空間、そして神々を無に返すことであった。  “無”にはその性質上、神々の力も光の力も闇の力も通用しなかった。 “無”の参戦により、争いは急速に終焉へと向かった。  “無”の力により、神と称するものから光と闇は解放され、争いに生き残った神々は、残された唯一の空間で世界の再構築を開始することとなる。  かつて神と称したものは“無”により、完全に力を失い、固体としての永遠に近い時間を失い、その記憶も存在意義もあやふやなまま再構築されたひとつの星に地を這うよう義務付けられた。  それは神と称したものが世界に対して犯してしまった罪の償いであるとともに、神々の審判と、“無”からの監視を受けるためでもあった。  これが、私たちの記憶の最も深い部分にある最初の争いと、その償いである。 しかし、かつて神と称したものは、その多くのものがその記憶すら呼び戻せずに今日では日々を暮らしている。  いがみ傷つけあい、依存と所有欲を愛と称し、不毛で虚ろなまま生き、いつかは救われる日をただ待っている。  記憶を呼び戻し、自分たちの存在理由に気づくことができたならば、そこから何をすれば救われるのかを見出せるものを・・・・。 かつて神と称したものは、いつの日からか自らの名称をヒトと呼ぶようになった。  以上が『神々の時代』と呼ばれるものの一節である。  また、当時はその『神々の時代』から伝わるとされる3本の聖剣が存在していた。  それは当時の人々にとって、神と自分たちが存在することの証明でもあり、同時に心の拠り所でもあった。  この物語は、『神々の時代』とそれに纏わる3本の聖剣に関わった人々の物語である。  当時の人々は、『神々の時代』を基に、神々によって約7万年前にこの星自体の進化の過程に、ヒトを中心とした世界の再編成の一部が組み込まれたと信じていた。  物語はガロア帝国という強大な軍事力と経済力を持ち、後に世界を震撼させるこ とになった、当時は人間族にとって最大の国家での些細な問題から始まる。
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