第十話

1/1
前へ
/13ページ
次へ

第十話

第十話:覚醒②  オベリスクは、東の大陸にて、ネロと対峙していた。  さらに強大になっていたネロの攻撃により、壊滅寸前まで追い込まれてしまったのである。  オベリスクは、運よくその場を月帝の剣とともに離脱に成功したが、以前の戦闘能力を回復するには多くの時間が必要な状況であった。  勢いに乗ったガロア帝国のネロは、自らと、フラカストリウスより譲り受けた聖剣近衛兵31名をもって、シグルドに対峙した。 シグルド: 「僕も聖剣を持っているものだから、僕とは違う聖剣の持ち主が、この世界を破壊しようとするならば、僕はそれを阻止してみせるよ。 この世界を守るために。 それができるのは、この世界で生きている僕自身であり、同じく聖剣を持つ僕の使命のように感じるんだ。 その使命を果たすために、僕は聖剣に選ばれたと今は感じるから、僕は戦うよ。」 と言って、ネロと剣を交えた。  しかし、多勢に無勢であったことと、何よりも、ネロ自身の凄まじい攻撃力と近衛兵の攻撃により、シグルドは瀕死の重傷を負うのであった。 それでもなお、この世界を守ろうとする強い思いが、シグルドの中の竜を目覚めさせた。  聖剣ノートゥングを持つものが、竜王として目覚めたため、その戦闘能力は計り知れないものとなった。  さらにシグルドはネロと戦闘していたが、力量不足もあり、しだいにシグルドが劣勢になっていった。 負けたくない。 その思いが、シグルドの中を支配し、シグルドの周囲を邪悪な気が覆い始めていた。  その先にあるのは、強大な力の暴走による精神と魂の歪みに他ならなかった。 見かねた月読命は、シグルドに撤退することを告げる。 月読命: 「シグルド、後は私がやる。君は下がっていなさい。」 といい、少し離れた場所で、シグルド自身を一時的に特殊な結界で防御した。 月読命: 「ネロといったね。これから先は私が相手をするよ。」 ネロ: 「持っているものといえば、その銀の笛だけで、剣も持っていないお前に何が出来るというのだ? あのオベリスクも我に屈したというのに。 エルフの魔法で戦うとでも言うのか?」 月読命: 「私はエルフではないんだよ。 それに、剣も魔法も私にとっては二次的なものに過ぎないよ。 いずれにしても、早くこの場を離れないと後悔することになるよ。」 ネロ: 「何を言っているのだ。お前の負けは決まっているようなものではないか。」 と言って、ネロと近衛兵は一気に斬りかかろうとした瞬間、月読命の周りに靄のようなものがかかり、31名の近衛兵はそれに飲み込まれ、一瞬で消え去った。 この世のものではない力を目の前にして、ネロは恐怖を感じていた。 ネロ: 「そ、そうか・・・以前に我が兵数百名と、ナイトメアを一瞬で消し去ったのは・・ お前だったのか・・・。」 ネロは、聖剣を持ってしてでも、勝てる見込みがない相手を前にして、恐怖とともに撤退を余儀なくされた。  数日後、月読命とシグルドは、オベリスクらの救護のために、一度コーラルへと帰還していた。  オベリスクの隊員には長期の休養が必要であることから、オベリスク隊の進言によって、月帝の剣は、月読命本人が所持することとなった。 シグルド: 「ねえ、月読命、ネロとの戦いの時に、なぜ僕を止めたの?」 月読命: 「暴走を抑止するためさ。」 シグルド: 「暴走?」 月読命: 「そう。暴走を抑止するためにね。この世界のすべての出来事や、この世界のすべての思いは、この世界の住人の一人ひとりに内在しているんだ。  まして君は聖剣の所持者だから、一つの思いが、他のたくさんの思いを呼び寄せることになるんだ。 ネロを思い出してごらん、怒りや恨みは、より多くの邪悪なものを呼び寄せて、本人の魂を歪め、その結果、破壊の限りを尽くしているんだ。 あの状態こそがまさに暴走なんだよ。 ヒトの心の中には、愛や慈しみ、喜び、そして、怒りや恨みといった、いろんなものが内在しているんだ。 問題は、それに飲み込まれないこと。 特に邪悪な感情に飲み込まれないことなんだ。 一つの感情に集中すると、そこにたくさんの思いが集まり、それを守ろうとする心は、いつしか攻撃を持つようになるんだ。 攻撃心は暴走を招くからね。」 シグルド: 「・・・・そういうことだったんだね。ありがとう。 でも、僕は、僕のままで、僕の命に代えてでも、ネロを止めて見せるよ。 誰かが悲しい思いをするのは、もうたくさんだからね。」  一方、ネロは、月読命に対抗する力が欲しかった。強烈に月読命を凌ぐだけの力を欲していた。  その強烈な思いは、地下深くに封印されていた3つのレクイエムを呼び寄せた。 そして・・ 3つのレクイエムのうちの1体である、キリエの封印を解き、それと一体化した。 これにより、ネロは永遠の命を手に入れることになった。  そして、このときになって、3体のレクイエムの強力な力によって封印されていたものの存在に気づいたのであった。  奇しくも、キリエの封印解除の波動を受け、シャナオウはリベラメの封印を解きリベラメと一体化した。  次いで、シグルドはラクリモサの封印を解き、ラクリモサと一体化した。  これにより、この3人は永遠の力と命を手に入れたのだった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加