第一話

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第一話

第1話:ガロア帝国騎士団①  ガロア帝国は、人間族によって築かれた国である。  人間族は、世界の再編成の際にヒトのより本来の姿に似せて創られた存在とされる。 しかし、その生命維持・精神維持に制限を持ち、限りある時間の中で生殖行為により子孫を残す。平均寿命は約50年。 地球上の60%以上の知的生命体が人間族であるが、そのもろさゆえに他の種族や動植物に対して極めて攻撃的になることがある。  人間族には3本ある聖剣のうちの、エクスカリバーと呼ばれる聖剣が神より託されていた。そして、ガロア帝国は、かつてエクスカリバー自体を帝として奉り、それを守護するために結成された円卓の騎士団がその前身となっている。    その後、時代が進むにつれて騎士団は無数に分裂し、民族間での争いごとが絶えなくなり、幾度となく無益な血が流された。    そんな中、ホビット族からの魔法を帯びた物品と人間独自の科学を応用した技術が、騎士団の一人であった天才科学者であるガロアにより提唱され、その技術の下で飛躍的に生活水準が向上し、それに伴い争いは平定され、人間族の幾多の集落や国家はひとつの国として、聖剣を主とする帝国に変化した。    そのガロアの功績を称え、その国は以後ガロア帝国と呼ばれることとなる。現在では、4年ごとに騎士団の中から名誉騎士12名を選出し、彼らが国を運営している。    当時のガロア帝国には、魔法の能力を帯びた物品が数多く存在していたため、魔法能力が殆ど備わっていない人間族であっても、それを媒体として多少の魔法を使用することが出来た。 多くの場合は、湯を沸かすための火を熾したり、大気中の水を瞬時に集めて飲料水を確保したりと、生活に密着した用途での物品であったが、騎士の称号をもつ者にのみ攻撃目的で作られた魔法剣というものの所持を許されていた。  魔法剣は様々な形態のものが用意されているが、剣のどこかに宝石が埋め込まれており、それが魔法剣の核になっていることが共通店である。   魔法は、人間族や目覚める前の竜族にはほとんど使えるものはいない。 ただ、その中においても、その片鱗として勘や未来予知能力に長けたものが存在することも事実である。 それに対して、エルフやホビットはごく当たり前に魔法を使うことが出来る。エルフは水や風に由来する生命の癒しや生育に関する魔法能力に長け、ホビットは火や土に由来する物や道具を生み出す能力に長けている。  魔法剣等の物品はもともと、人間族に欠落している魔法能力を補うためのものでもあった。  時は流れ、ガロア帝国建国より約500年が経過していた。  騎士による専制政治に疲弊が生まれ、貧富の差が誰の目から見ても明らかとなっていた。  それでもなお優遇されている騎士たちに対し、ガロア帝国に住む民間人の不満が募り、それはいつしか激しい怒りとなり、各地で紛争が絶えなくなっていた。  そこで、騎士団のなかから、神より託された聖剣の封印を解こうとする者たちが現れた。  聖剣は絶大な力を持つが故に、神々の時代より厳重な封印ともいうべき仕掛けが施されていた。  聖剣にはそれを持つための専属の肉体があり、その封印を解くためには専属の肉体に魂を宿らせなければならない。 また、魂となるものも聖剣に選ばれる必要があった。  過去において、聖剣の封印を無理に解こうとしたものがいた。そのものは肉体と融合を果たしたものの、聖剣に選ばれたものではなかったため、僅か二ヶ月でその魂は肉体に食われ、再びもとの封印状態に戻った。  そこで、今回封印を解こうとする騎士団たちは、莫大な財力を基本に遺伝子操作研究所を極秘裏に設立する。それは聖剣の肉体に宿る魂を人工的に作り出そうとするものであった。 しかし、保守派の騎士団による激しい弾圧にあい、封印を解こうとするものたちは次々と暗殺され、三年後にはそのほとんどの計画が水泡と化した。  それから50年の歳月が流れ、再び聖剣の封印を解こうとするものが現れた。  その者の名はフラカストリウス。彼の祖父は当時の騎士団の長で、未遂に終わった先の聖剣の封印解除計画による騎士団内の摩擦によって、保守派により暗殺されている。  フラカストリウスの家系は代々騎士の家系であったが、祖父の暗殺に伴いその称号を剥奪されている。そのときに、騎士の証とも言うべき魔法剣も没収されていた。  彼の父も非難され、虐げられて不遇の死を遂げている。フラカストリウスは、騎士団への激しい怒りと共に民衆への怒りも心の内に秘めていた。彼は祖父の代より、その存在すら公に明かされていないままの遺伝子操作研究所の施設と、その全ての権限を譲り受けていた。  フラカストリウスは、現在の騎士団と民衆に対して、はっきりとした攻撃意識を持ち、 聖剣の封印解除に取り掛かった。  遺伝子研究所はもともと、聖剣を軍事目的で使用するために、聖剣に宿るための精神を人工的に作ることにあった。 それは、いかなる戦闘にも耐えうる強靭なものであるのと同時に、こちらの思い通りになる精神体である必要があった。  そこで、その精神体を宿らせるための肉体を遺伝子操作により作り上げていた。それは、人間族のみならず、エルフ、ホビット、竜族の特徴を兼ね備えていたため、それ自体が優秀な戦闘能力を備えていた。  しかし、成功した実験体はわずか32体だけで、そのうちの一体だけ魂が宿った。  それは非常に戦闘能力が高かったが、マインドコントロールが通用しなかったため、仮死状態にて研究所内に保管されている。  その頃、ガロア帝都で騎士団員が数名あるいは単独で行動中に何者かに襲撃される事件が数件起きていた。  その事件は、いずれの場合も騎士の命を奪うことなく、魔法剣を略奪して犯人は忽然と姿を消していた。  それが民衆による犯行であるならば、民衆は反政府目的で襲撃した騎士を捕虜にするか、もしくはその場で殺害するであろう。 しかし、犯人の目的は魔法剣のみであったことに、騎士団たちは一様に不可解な思いを抱いていた。 なぜなら、確かに魔法剣の威力は強力であるが、今や威力の差はあるものの魔法剣に頼らずとも魔法を帯びた武具は民衆の中にも多種多様にあるからだ。  時を同じくして、民衆の間に約50年前より莫大な税金を投資して存続していた遺伝子研究所の存在が故意に公表された。  騎士に比べて明らかに虐げられている民衆たちの怒りは爆発し、その矛先は遺伝子研究所施設そのものに向けられた。 しかし・・。 民衆たちがその施設に到着したときには蛻の殻であった。 民衆たちはそのまま占拠したのであるが、未だ遺伝子研究所が存続していたことを噂で知った騎士団たちもそこに駆けつけて、そこは戦場になった。  それらは全てフラカストリウスが仕組んだことであった。その間、騎士団から略取した40本の魔法剣のうちの一本を自らが所持し、残りは遺伝子研究により作り出された31人の兵に所持させ、そして、騎士団の守りも民衆の反政府組織も手薄になった帝都に乗り込んだ。  目的場所は、帝都のほぼ中心にある、聖剣が眠る封印された地下神殿であった。  まもなくして、フラカストリウスらは数々の罠と封印を解き、地下神殿の最深部に到着した。そこには広大な空間で、中央に玉座が据えられていた。 その玉座には骸が鎮座しており、その手には柄の部分より放射状に伸びた5本の刃を持つ剣が携えられていた。  その剣は、形状から考えて約三分の一が床に突き刺さっている状態であった。それこそが聖剣エクスカリバーであった。  どこからともなく玉座の傍らに騎士の甲冑を着た老婆が現れた。 「わが名はマーリン。はるかな昔、聖剣の封印を解いたものがいた。 しかし、その絶大な影響力ゆえに精神が暴走し、極めて好戦的になり、その結果人間族の領土を広げることに成功したが、自らの精神が聖剣の肉体に蝕まれていることに気づき、自らの最後の力を使い融合した肉体を再び骸に還した。 それと同時に、今後の聖剣の監視役として、私に数千年の時を生きれるように細工を施したのだ。  聖剣の真価を発揮したいのであれば、聖剣にその者が認められる必要がある。しかし、神々の時代より誰も認められたものはいない。無理に封印を解き、その者と聖剣の肉体が融合した場合、魂の維持は短い場合で2ヶ月、長く維持できたとしても数年で聖剣の肉体はもとの骸に戻ってしまう。 ここまでたどり着きし者よ、お前は何を望む? 」  マーリンと名乗った老婆は、フラカストリウスに対してそう言った。  フラカストリウスの心の中には、民衆への怒りと、祖父を暗殺し、父を不遇の死に追いやった騎士団への激しい怒りが渦巻いていた。 目的は聖剣を用いて復習を果たすことであり、自らが聖剣に認められるかどうかは、フラカストリウスの中では問題ではなかった。 フラカストリウスは、自分の心のありのままを目の前にいる甲冑を身に着けた老婆に吐露した。 マーリン:  「そうか・・私は聖剣を見守る者。人間族に託された聖剣を、人間族がその封印を解除しようというのであれば、それがいかなる理由であろうとも私はそれを見守るとしよう。 ただ、お前が連れている人間の姿をした魂の宿っていない人形どもでは封印解除は出来ない。 封印を解除できるのは、あくまでも魂を持つ存在のみだ。 フラカストリウスよ、お前は、お前の意思で、侵入さえ極めて困難なこの神殿の玉座まで来た。 この先、周囲の者どもはお前を全力で阻止しようとするであろう。この状況を打破できる術は、おまえ自身が封印解除を行う以外に方法はない。」  フラカストリウスの心には、復讐を達成させる明確な目的には、何の曇りもなかった。短い間に聖剣の肉体に自らの魂が食われることも厭わない覚悟であった。  フラカストリウス: 「聖剣とその肉体よ、私を受け入れろ。僅かな間でもいい、我が魂と融合し、我が復讐の糧となれ。」  そう言うと、フラカストリウスは自らの剣を首にあて、聖剣の肉体にもたれ掛かり自らの首を斯き切った。  血しぶきが聖剣の肉体を覆い、血まみれになったが、その血を聖剣の肉体が吸収し始め、さらに、フラカストリウスの肉体をも飲み込み、やがて彼の全てを飲み込んだ。  そして、聖剣の肉体はフラカストリウスの肉体を形どったものとなっていった。しばらく時間を置いて、フラカストリウスは目覚めた。自らの肉体が、元通りになっていることに驚きを感じた。しかし、肉体の芯から湧き上がる力は、今までとは明らかに異質のものであった。  それと同時に、激しい喉の渇きを感じた。 フラカストリウス:  「これは?肉体が元通りになっているではないか。」 マーリン:  「いや、そうではない。聖剣の肉体がお前の肉体ごと魂を飲み込んだのだ。聖剣の肉体は、宿る魂のイメージにより変化する。 その結果、聖剣の肉体に宿ったお前の魂が、お前の肉体を形づくっているのだ。 しかし、肉体から絶大な力が湧き上がるのを感じるであろう?それこそが何よりの証拠だ。」 フラカストリウス:  「あぁ、確かに、この沸き上がる力はすばらしい。しかしこの激しい喉の渇きは何だ?」 マーリン:  「フラカストリウスよ、残念ながらお前は選ばれしものではなかったのだ。その喉の渇き、それこそが聖剣の肉体にかけられた呪いだ。  その喉の渇きを癒すのには水や酒では癒せない。それを癒すには、死者の魂が必要だ。 しかも、肉体から離れたばかりのなるべく新鮮なものが必要だ。  逆に、それに抗い魂を食らうことを拒否した場合、おまえ自身の魂は僅か数ヶ月で聖剣の肉体に食われ、聖剣の肉体は元の骸になるであろう。  さぁ、時間は限られているぞ、聖剣を玉座から抜け。そして目的を果たせ。」  その言葉を受け、フラカストリウスは玉座の床から聖剣エクスカリバーを抜き放った。 更なる力が湧いてくるのをフラカストリウスは感じていた。  試しに聖剣を軽く振ってみたところ、その衝撃で周囲の柱や扉がなぎ倒され破壊された。  次いで、聖剣に破壊のイメージを持ちつつ力を込めて一振りしたところ、地下神殿は半壊状態となった。  その翌日、聖剣が安置されていた地下神殿で爆発が起き、半壊状態になってしまったこと、そして、遺伝子研究所で民間人と戦闘になるも首謀者と目される人物がいなかったことにより、名誉騎士団による緊急会議が帝都にあるグスタフ宮殿によって行われていた。  グスタフ宮殿は、名誉騎士団が重要な会議を行う際に、好んで使用される場所でもあった。  そこに、突如聖剣を携えたフラカストリウスと共に、騎士の証でもある魔法剣を携えた31人の兵士と甲冑を着た老婆が会議室に現れた。 騎士団たちは動揺を隠せなかった。 名誉騎士団員A:  「まさか・・・聖剣の封印を解いたというのか?」 名誉騎士団員D:  「それは決して許される行為ではないぞ。」 名誉騎士団員K:  「一連の騒ぎはお前が仕組んだことなのか?」 名誉騎士団員F:  「なぜ、それが封印されていたままだったのか、お前は知らないのか?その絶大な破壊力は、この星の存続にも関わることなのだ。神の怒りに触れことになるぞ!」 名誉騎士団員B:  「皆の言うとおりだ。封印は一刻の猶予もなく元の封印状態に戻さねばならない。」 名誉騎士団員I:  「封印を解きし忌まわしき者よ、お前は何者だ?」 フラカストリウス:  「我が名はフラカストリウス、祖父は50年前にお前たち騎士団に暗殺された。  父は非業の死を遂げている。私は、お前たち騎士団と民衆に復讐するために聖剣の封印を解き、ここに現れた。  聖剣の主が騎士団に認められるには、騎士30名以上の同意が必要なんだろう?ここに、私が連れてきた31名の騎士たちは、それに同意する。お前たちが同意しなくても、ここに正当な理由がある。  ここに、私がガロア帝国の王として君臨することを宣言する。反対するものは、この場で殺す。」 名誉騎士団員C:  「正気か?その先にあるものは破滅以外の何者でもないのだぞ。」 マーリン:  「しかし、それは、聖剣を手にした者の強い意志なのだ。」  僅かな沈黙の後、名誉騎士団員の数人が魔法剣でフラカストリウスに対し斬りかかったが、聖剣を持つフラカストリウスへはかすり傷ひとつつけることは出来なかった。  フラカストリウスが斬りかかってきた奴らに剣を軽く振るうと、彼らの肉体は高熱にさらされて、見る影もなく蒸発してしまった。 そして、フラカストリウスは、目の前で肉体を失った者達の魂を食らった。剣を抜かなかった名誉騎士団らは、恐怖におののき、フラカストリウスに従わざるを得なかった。  聖剣の封印が解かれた情報は、瞬く間に民衆の中にも広がっていった。 それを喜ぶものもいたが、民衆の中には、それを反対するものの方が多くいた。また、騎士たちにこれ以上の力を持たせることに強く反対するものがいた。    この時点でフラカストリウスが信用できる存在は、自ら命名し聖剣近衛兵と名づけた遺伝子操作によって作り上げた31人の騎士と、マーリンだけであった。  しかし、聖剣の所持者ということから、フラカストリウスに付き従うものも序々にではあるが増えてきた。  そして、フラカストリウスは騎士・民衆を問わず反対派へ宣戦布告した。  当然、反対派のもの達はそれに抗い、強大な軍隊を組織しフラカストリウスと武力戦闘を行ったが、反対派の負けは戦闘前から決まっているようなものであった。  聖剣の威力の前では、魔法剣を持つ数百人の騎士や、その他の武器を持った民衆など、何の意味もなさなかった。  そして、自らと聖剣近衛兵が殺害した反対派の者達の魂を食らい、フラカストリウスの力は益々強力なものとなっていった。  数ヵ月後、フラカストリウスは反対派を一掃することに成功する。  ここにきて、ようやく祖父の代から続く恨みを晴らし、フラカストリウスが望む復讐が終了した。  しかし、喉の渇きと共に、フラカストリウスは自らの糧となるための更なる魂を欲していた。  それは植民地開拓という面目の元での世界侵攻の始まりの引き金となった。 『復讐』という目的を失ったフラカストリウスは、聖剣の強大すぎる力と、自らが食らった魂に宿っていた恨みや怒りの影響を受け、聖剣の肉体に不釣合いなフラカストリウスの魂が、序々にではあるがあらぬ方向に暴走を初めていった。  その結果、西の大陸の辺境にあったガロア帝国は、僅か3年で西の大陸を制圧する。  その一年後、フラカストリウスは大海を隔てた東の大陸への侵攻と、今まで禁断とされてきたエルフ族への弾圧を宣言する。  賛成派の騎士・一部の民衆からは大いに祝福された。しかし多くの人は、世界侵攻に疑問を抱いていた。 が、実際には、フラカストリウスが行う恐怖専制政治の前には、誰もなす術がなかったのである。
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