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第三話
第三話:グングニル皇国③
ガロア帝国周辺のエルフへの弾圧が開始されてから1年が経過していた。
ガロア帝国の東海岸沿いに位置する軍事基地にて、ようやく東の大陸へ侵攻のために軍艦40隻、飛空挺20隻が完成した。それらの船はホビットより伝わった技術がいたるところに応用されていた。
フラカストリウスは早速、東の大陸に攻め上るため、大海を軍艦で航行するも、東の大陸の手前で、数十人の竜王に阻まれてこれ以上の侵攻は困難を極めた。東の大陸の北部は、竜族が住むグングニル皇国の領土である。
ガロア帝国軍の騎士や兵士が次々と命を落としていく中、物資も雑兵もつき始め飛空挺が全て破壊され、軍艦も現存数が5隻になった時点で、現状では侵攻は不可能と判断したマーリンは、フラカストリウスに撤退を進言した。
フラカストリウスはそれに従うしかなかった。
東の大陸を離れていくごとに、竜王の攻撃は和らぎ、次第に途絶れていった。その数週間後、真夜中にフラカストリウスは母国へ帰還した。久しぶりに母国の土を踏んだフラカストリウスであったが、普段とは異なる気配を感じ、周囲を見渡した。
すると、忽然と周囲を囲むように、11人の武装したエルフが現れた。
オベリスク 睦月:
「われらはオベリスク、この世界を周遊する魔法騎士団なり。
聖剣を持ちしものよ。
この世の秩序を破壊しようとするものよ、東の大陸には、我らの故郷でもあるコーラルがある。
その地を汚すことは決して許さない。」
オベリスク 霜月:
「聖剣をもちしものよ、お前がおこなってきた我らの同胞への弾圧には目に余るものがある。これ以上は許さんぞ。」
フラカストリウスは、自分の目を疑った。戦闘意識をほとんど持たないエルフ族が、剣や甲冑で武装した状態で目の前にいるのだ。
フラカストリウス:
「マーリンよ、このエルフどもは何者だ?」
マーリン:
「はるか昔に聞いたことがある。
月帝の剣はあまりにも危険なものであることと、エルフ族の国であるコーラルにそれがあることによって他亜民族との争奪戦が展開されることを防ぐために、エルフによる最精鋭魔法騎士団が結成された。
その騎士団は、一人ひとりが竜王をも凌ぐ能力を持ち、月帝の剣の所在を一定のものにしないために、各地を周遊しているそうだ。
私も出会うのは初めてであるが、おそらくはこいつらがそうなんだろう。」
フラカストリウス:
「そうか、これは手っ取り早い。月帝の剣をよこせ。」
とフラカストリウスは、オベリスクらに言い放った。
オベリスク 雪見月:
「聖剣を持ちし者よ。しかし、お前は聖剣の封印すら正規の解除を行っていないではないか。月帝の剣はそんなお前に扱える代物ではないぞ。」
オベリスク 長月:
「聖剣など、“あれ”を起動させるための鍵に過ぎない。その鍵の封印すら、お前は正規の封印を解いてはいないではないか。」
オベリスク 葉月:
「お前の魂は、程なく後に聖剣の肉体に食われ、聖剣は再び封印状態になるであろう。それまで何もせずに、じっとしていることだ。」
フラカストリウス:
「なんだと?鍵とは何だ?」
オベリスク 水無月:
「お前はそれすら知らずに聖剣を手にしたのか。」
フラカストリウス:
「馬鹿にしやがって、じっとしていろだと?私がどんな気持ちで聖剣を手にしたか、お前たちは知らないだろう!」
オベリスク 卯月:
「理由はどうあれ、お前がしてきたことを振り返ってみろ。
どれだけの無益な血が流され、どれだけの魂をお前が食らってきたか。
もう終わりにしろ。
さもないと、我らがお前の行く先を阻止することになるぞ。」
フラカストリウス:
「望むところだ。月帝の剣、渡してもらうぞ。」
と言い放ち、フラカストリウスはエクスカリバーを構え、オベリスクに対して攻撃を開始した。
同時に、ガロア騎士団の精鋭50名もそれに参戦した。
聖剣を所持し、その肉体と融合している自分と、騎士団の精鋭が、たかだか11人のエルフの魔法騎士などに負けるなどとは考えてもいなかった。
しかし、オベリスクの圧倒的な戦闘力の前に惨敗したのであった。彼にとっては信じられないことであった。
瀕死の状態で、フラカストリウスはグスタフ宮殿に運ばれた。
もうその時期がきていたのであろうか、普段であれば、肉体の傷は驚異的な速度で回復されるのであるが、もうその能力が働くことはなかった。
その際に、はっきりと自分の魂の死を悟ったのであった。
しかし、フラカストリウスの心の中には、依然として激しい怒りと怨みに満ち溢れていた。
自分自身が消滅しても、その意思を継ぐ後継者を強く欲していた。
その思いは、目覚めさせてはならない者の魂の眠りを解き、フラカストリウスの魂が消滅すると同時に、時期エクスカリバーの肉体の宿主となった。
その者の名はネロ、ガロア帝国初期に、かつて暴君として名を馳せ、その後民衆の暴動により処分された名誉騎士の一人でもあった人物である。
魂だけになっていたネロであるが、エクスカリバーの肉体の宿主となったのである。そして、奇しくも今まで聖剣の肉体に宿っていたフラカストリウスに選ばれたことによって、聖剣に選ばれたものとして、正規の封印を解くことになったのである。
ネロは、フラカストリウス以上の強大な力をエクスカリバーより引き出し、また喉の渇きに悩まされることもなかった。
それは聖剣に選ばれたことの証明でもあった。
数ヶ月後、ネロはフラカストリウスの遺志を継ぎ、東の大陸への侵攻を開始すると同時に、フラカストリウスの無念を晴らすためと月帝の剣を奪取するために、オベリスクへの復讐のための探索を開始した。
竜王をも凌ぐ程のとてつもない攻撃力を身に付けたネロと、再建された軍艦や飛空挺と数百名の騎士や兵士たち、そしてフラカストリウスより譲り受けた31名の魔法剣士を引き連れて攻め上ってきたガロア帝国軍に、竜王に守られたグングニル皇国はしだいに劣勢となっていった。
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