第七話

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第七話

第七話:グングニル皇国④  僕は死んだはずであった。何の前触れもなく、皇都の上空に空中要塞が現れ、竜王たちは抵抗していたけど、聖剣を持ったネロという人物には太刀打ちできなかった。 まもなくガロア帝国の兵士たちが帝都で破壊と殺戮の限りを尽くしていた。そして、目の前で親や親しい人が殺され、まもなく、自分も殺された。  僕は死んだはずであった。しかし、蘇ったのだろうか、目を開けると、周囲にいた数人の人々が歓声を上げた。  僕の右手には逆V字形の巨大な刃を持つ槍があった。 周囲の数人が私に声をかけた。 周囲の人物: 「聖剣ノートゥングに選ばれしものよ。名前を教えてくれ。」 シグルド: 「僕の名前は、シグルド。」 周囲の人物: 「歳は?」 シグルド: 「15歳」 周囲の人物: 「竜族か?」 シグルド: 「はい。竜族です。でも、竜王として目覚めてはいません。」 周囲の人物: 「そうか・・・君は聖剣に選ばれた。君の手の中にある巨大な槍、それこそが竜族に伝わった聖剣ノートゥングだ。 ガロア帝国のネロは、聖剣を手にし、破壊の限りを尽くしている。これ以上の破壊行為は、なんとしても阻止しなければならない。君の力が必要なのだ。 ガロア帝国のネロに立ち向かってくれ。」   そう言われても、シグルドは混乱していた。僕は死んだはずなのである。  しかも自分の都合以外で蘇えさせられ、聖剣の所持者として、ネロと戦えといわれる、この状況に恐怖さえ覚えた。 もう僕はあのような惨劇は見たくないし、また、自分自身が戦うことによって、他の人に悲劇を与えることなどは、考えられない行為であった。 そもそも、何故自分が聖剣に選ばれたのか、理解できなかった。 シグルド: 「何故、僕が選ばれたのですか? 僕は戦いたくはないです。 戦いによって生まれる惨劇が本当に怖いのです。 僕は戦いたくはないのです。」 といった瞬間、周囲からざわめきが起きた。 周囲の人物: 「なんと! 聖剣の肉体に選ばれしものが戦う意思を持たないとは! しかし、聖剣の肉体と融合したものがガロア帝国のものではないということだけでも救いか・・。」 周囲の人物: 「しかし、このままコーラルに滞在していては、ここも戦場となり、シグルドはネロの餌食になるぞ。」 そこに、月読命が現れシグルドの所在を預かることを進言した。 月読命: 「私が、シグルドを預かりましょう。最も、シグルド本人が望めば。ですが。」 ノルナゲスト: 「あなたは?」 月読命: 「私の名前は月読命、笛を吹いて各地を転々としている者です。」 ノルナゲスト: 「あなたは・・・そうでしたか。コーラルは、あなたから託されたものを守護するために作られたエルフの国・・。 あなたがここにいても不思議ではないですね。 あなたと共にシグルドが行動するのであれば、我々としても安心できるところです。」 シグルド自身、今目の前にある状況を拒否するためには、それに従うしかなかった。 周囲の人物: 「ノルナゲスト様、あの月読命とは何者なのですか?」 ノルナゲスト: 「これは、神々の時代の外典にしるされた、この世界の根幹にも関わることであり、ヒトの存在理由の依代となるものだ。  私たちよりも、私たちが神とよぶ存在よりも遥かに大きな『科学者』と呼ばれる存在がいた。    彼はフラスコを用いその中で光と闇を用いた空間分裂の実験を行っていたのだ。  そのフラスコの中で、空間を創造する神ウルが産まれ、さらにあまたの神々も産まれた。  空間統率神ウルは、この実験が終了した時点で、フラスコ内の全てのものが、その実験記録のみを残して消失することも知っていた。  そこで、空間統率神は、自身がもてるすべての記憶と可能性を、一つの種(ヒト)に託したのだ。  しかし、その『種』は他のものと融合していく過程で、自らの限界を超え、暴走しフラスコ自体を破壊してしまうほどの危険な存在となったのだ。  その点においては精神的にまだまだ未熟であったといえる。その暴走を制止し、実験内容を良好な状態に戻すために『科学者』によりフラスコの外より遣わせられたものが“無”といわれている。  その“無”とは、唯一意識を持つ“無”であり、その力の最大の特徴は、文字通りすべてを無に返すところにある。 よって、フラスコ内のどのような攻撃力も、混沌も、建造物も、“無”に対しては何の効力も持たない。 例えるならば、0という数の、他の整数との関係と同じなのだ。  現在、“無”は、そのほとんどの力を、天体である月に本人の意思により封印しており、監視のためにヒトの中に紛れて吟遊詩人として存在しているといわれている。  そのことから、その存在を知る者からは、月の神の名前で呼ばれることがしばしばあり、多くの場合は、極東の国の神話に登場する月神の名である、月読命と呼ばれているらしい。    その容姿はエルフ族と酷似しているといわれている。それもそうだ、エルフは“無”が具現化した際の姿に似せてヒトの一部が変化したものの末裔なのだから。」  “無”である月読命の発言は、ノルナゲストにとって、神の詔であった。 戦意を持たないシグルドが、戦場でガロア帝国に捕獲され、ネロに利用されることを避ける意味でも、これ以上の守護はなかった。  シグルドが戦意を持たないことを受け、その場に居合わせたホビット族の長老であるスティードは、他のホビット族の長老たちに協力を要請し、海底深くに封印されているオノコロの封印を解除することを決意する。  数百年ぶりに空中に浮かんだオノコロで、そこに安置されていた、柄より垂直に伸びた心棒の左右に、それぞれ長い片刀の直刀をつけた形状をしている、聖剣アメノムラクモの封印解除を正統な方法で行った。アメノムラクモによって選ばれた魂は、かつて他を凌駕する天才的な軍事的才能により、その名を馳せたシャナオウと呼ばれる人物の魂であった。  シャナオウは、ガロア帝国初期の、ネロが民衆によって処分されてから約30年後に活躍したガロア帝国の名誉騎士の一人である。  当時、ガロア帝国各地でくすぶっていた内乱を僅かな軍で鎮圧し、周辺の強国の侵入を阻止することに成功した人物である。  ただ、その軍事的才能ゆえに、他の名誉騎士の一部から疎まれていたことも事実である。  人情に厚かったことを逆手に取られ、後に策略により地位を追われ、暗殺という非業の死を遂げている。  また、彼は、ホビット族と人間族のハーフであり、いまもなお歴史上のシャナオウを英雄視する人々が多い。  シャナオウは、自分が聖剣の肉体に宿る魂として選ばれたことを素直に受け入れ、ネロに抵抗することを決意した。  その翌日、コーラルにてガロア帝国解放軍が結成された。  それは、エルフ・ホビット・竜族と、ガロア帝国に抵抗する人間族によって結成された軍である。
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