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07. 最初にして最後のデート<4>
「なにこれ」
そんな二人をホロに投影し、見守る三人がいる。
アイバンは呆れていた。心底呆れていた。恋愛については数々の修羅場をこなしてきたと思っていた友人の珍妙なデート風景に、心から呆れていた。
「こんなん、デートじゃねえ!」
横にいるのは、もちろんイヴとラケルタだ。強制的にサイレのデートを監視し妨害する集まりに参加させられたアイバンだったが、これだけは主張せずにいられなかった。
「なんなのコレ? デートじゃなくて、哲学論争? シファさんて変な人なの? サイレが変なの? ある意味お似合いなの?」
「お似合いじゃない!」
「お似合いじゃありません」
二人の女子は即答した。
「大事なのはそこじゃなくて」
「ううん、そこだよっ」
イヴは言い切る。「お似合いかどうか、それがすべてじゃない? それでサイレが幸せになれるかどうか!」
「いやそれはわからんでしょ、つきあってみないと」
「そうよ。サイレが幸せになれるかどうかよ」
日ごろはたいてい冷静にほほえんでいるラケルタだが、このあいだから少し変。「わたしが幸せじゃなくても。サイレが幸せなら、いいわ」
「ええっ?」
正直なところ、初耳だった。「いつのまに、そんなんなっちゃってんの?」
「ずっとまえからだよっ、アイバンのばか」
「ええっ俺が悪いの? ええー……てことは、ハルは失れ……うおっと……」
ハルはラケルタとアイバンのクラスメートで、ラケルタに片想いしている。
「ハルはサイレじゃないもの」
「おっとー!」
冷徹なひと声に、アイバンはのけぞる。
「うるさい」
「あのー、ところで……」
アイバンはおそるおそる尋ねる。
「なんなんですかね? さっきから気になってたんだけど、この、イヴの端末にサイレたちが映っちゃってるのは?」
淡々とジェットコースターに揺られたあと、なんの興奮もみせずにそのまま降りていくサイレとシファを見送って、イヴとラケルタはアイバンを振り返る。
イヴが肘をついているテーブルは、アカデミア図書館の貸し会議室のものだ。通常はグループワークの相談をしたり、映像資料を複数の学生で閲覧したりするためのスペースだが、今日はここでイヴの端末からデートをのぞいている。
六人掛けの大テーブルと椅子とホワイトボードしかない殺風景な部屋に、真剣そのものの表情でデートをのぞく女子二人とアイバン。
「いいんですけどね、ホロ映像はね……問題は、このカメラ、どこについてんの? どうやってアクセスしてんの? てことなんですけど」
「どうって」
ラケルタはちらりとイヴを見やる。イヴは口をひらいた。
「妖精さん」
「うーん、妖精さんですかあ。まあシステムのことは問うまいて。問題はー、これってわりと犯罪なんじゃないかなーって」
「うん、それはね。さっきサイレに言っておいたから大丈夫」
「ほう」
「最終警告だって言った。警告に従ってデートをやめないと監視して邪魔するよ、て言うつもりだったんだけど、途中で切れた」
「うーん……それはー……本人の了承を得ているとはいいがたいよね?」
「とにかく、手順は踏んであるから。ほら次、コーヒーカップ」
「それはまた古風な……てか、〈ワールド・アトラティカ〉の入り口に近いヤツ順番に乗ってるの?」
なんなのこのデート、とぶつぶつ言いつつ、アイバンはホロに視線を戻した。
「なんで真顔でコーヒーカップ……サイレ楽しいの?」
「だからサイレは幸せじゃないんですぅ」
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