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もうすぐ曲が終るという時になって、ステージの向かいに見える、つまり観客席の後ろにある機械室のスタッフが襲われているのが見えた。こんな時に……!私が対応しても良いけれど、下手に騒ぐとズヨネロハスさんが心配だわ。
私の担当パートはこの後8秒間休符がある……この時間を利用して!
「全警備員、機械室で非常事態発生」
インカムで警備員の無線に割り込んで警告を入れ、循環呼吸で演奏を続ける。機械室に警備員が乗り込み、侵入者は取り押さえられた。
──
私の出番が終わりバックステージに戻ると、見覚えのある後ろ姿が非常口に見え、扉が閉まった。私とほぼ同じ身長にあの動き……見間違えでなければ、あの背中は“組織”の田嶋さんよね……?
あの非常口から出たという事は、もしかして機械室に現れた暴漢を追っていたのかしら?
私は後を追い、吹き抜けから駆け付けた警察を見下ろす田嶋さんに追い付く。
「今晩は、田嶋さん」
男性としては小さくも、独特の内なる殺気を抑え込んでいる背中に声をかける。田嶋さんの間合いに入らない距離から。
田嶋さんは抜刀術が得意で、3尺3寸の長大な刀を、茶室のような狭い場所で信じられない位早く抜く事が出来る。今は帯刀していないようだけど、その間合いに不用意に踏み込むのは憚られる空気がある。
「!……静かに素早くか。変わらンな」
田嶋さんは振り返らずに呟くように応える。
「貴方が教えたんですよ。それより、必要でしたら劇場を案内しますけれど?」
「……俺も歳だな」
「どちらに行かれます?」
「とりあえず外だな」
「あら、もう少しゆっくりされていけば良いのに……」
私は正面入り口の階段へ向かうけれど、田嶋さんは着いて来ない。
「何をされているんですか?こちらですよ?」
「ッてもよ……」
「ほら、急がれているんでしょう?」
私は田嶋さんを連れて正面階段を降り、階段を駆け上っていく警察官達とすれ違いざまに会釈する。
「御苦労様です」
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