プロローグ

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「大丈夫ですか?!」  私は倒れているライダーに近寄ると、ライダーは起き上がろうとする途中で動作を止めて、改めて仰向けになる。怪我をしているみたいね。 「そのままで良いですよ」 「あんた、ツカモト・アイ?!ハハッ、事故った上にバイク奪われてサイアクって思ってたけど、そうでもなかったみたいだ」 「バイクはご免なさい。今テロリストを追っていて……」  黒っぽい色のライダースジャケットのせいでよく見えなかったけれど、石畳に血溜まりが出来かけている。これ、転んだ傷じゃないわね。 「撃たれてるわ。流れ弾に当たったのね……」  ライダースジャケットに弾痕を発見したから、ライダーの手をそこに置く。 「このまま押さえて。強くね。多分ライフルの弾だから簡単に止血出来ないと思うけど救急車は呼んだから……」  ライダーの膝を立てて、少しでも血圧を高く保てるようにする。  ライフル弾の止血が難しいのは、超音速で射出された銃弾が、着弾時に衝撃波を発生させて、それが人体の骨以外の軟らかい生体組織に伝わった場合、その組織が破壊されるから。つまり、傷口は銃弾の口径とほぼ同じだけど、その内側は大きく破壊される事になる。これが貫通する程のエネルギーの場合、射出口はとても大きくなる。  拳銃弾の場合は威力も速度も小さいから衝撃波の発生も小さいけれど、その代わりに変形しやすい弾頭で生体組織を不規則に切り裂いていく設計になっているものも多い。 「救急隊員が応急処置をしてくれるまで辛抱してください」 「ああ……」 「もう行かなくちゃ……頑張ってね!」  私はライダーの止血している方の手に触れてから離れ、再び車に乗る。 「今から追い付けますか?」 「サイレンを追えばね!」  助手席に乗り込んでシートベルトを締めると車は再び走り出し、パトカー1台とすれ違う。あのライダーの応急処置に駆け付けたみたいね。
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