56人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
ヒロは奈津子と一緒に家を出て、待ち合わせ場所の公園に向かう。
そこで友達と落ち合い、市民プールに向かうのだ。
ーー若葉公園。
そこが待ち合わせの場所だ。公園と名が付くが、遊具もなく、整備された広場にベンチがあるだけで、広さはそこそこあるのに球技も民家が隣接してる為か禁止されている。
日向ぼっこをする老人と、犬を散歩させる人が朝夕に居るくらい。
つまらない公園。
それが若葉公園が出来た時に、ヒロが奈津枝に言ったセリフだった。
奈津枝の話では、公園と同時期に完成した、隣接しているマンションが管理している公園だから、遊具とか置いて子供に事故でもあると面倒だからでしょ? という事だったが、真相は不明だ。
若葉公園は、ヒロの家から北に直線で500mほどの距離にある。
普通に表の道を通り行っても遠くは無いが、あえてヒロは裏道を通り、近道する事に毎回している。子供ならではの心理だ。
小さな冒険心であった。
奈津子と別れて、ヒロの家の裏のマンションの自転車置き場を突っ切り、さらにドラッグストアのトイレと店の間を抜けて、空き地に出てそこを突っ切り、細い裏道に入る。住宅街を抜けて、暗い木々に囲まれた坂を下り、昔ヒロの通っていた幼稚園の横の遊歩道を通り。
ーーそして、この辺の子供にとっていちばんの難所。
青野ババアの家の前へ。
昔、青野という老女が住んでいたが、今は居ない。
もっぱら、お化け屋敷として、子供達には扱われてる。
昔は幼稚園に行く時に、家の縁側で佇む青野ババアをヒロは見ていた。
その頃は、まだ家には青野ババアが居て、毎日縁側に座って親に連れられて通う園児をじっと見ていた。
特になもせずに、ただ見てるだけなのだが、インパクトが凄く、まるで鬼婆のように子供達には見えていた。
真っ白くボサボサの髪の毛に、ガリガリの体、ブカブカの服。
しかも、その服は何故かいつも若めの物ばかり。
確かに、異様で昔話に出てくる鬼婆のようでもあった。
その当時、園の友達は皆んな恐れていたが、だがヒロは別に怖く無かった。
それは単純な理由で、奈津子が可哀想なお婆ちゃんだと、最初に見た時に言ったからだった。
そう言われていたから、ヒロにはただの可哀想なお婆ちゃんにしか見えなかった。
先入観という物は、想像以上に物の見方に影響する。
例えば、可愛い人形も、ホラー映画に出てくると恐ろしい呪いの人形に見える。
弱々しいただの老女も、お化けだと思えば、恐ろしい鬼婆に見える。
とは言うものの、確かに昔は可哀想な老女が1人住むただの家だったが、今は荒れ果てて、庭の木の枝葉が大きく道まで伸び、雑草も茂り、本当にお化け屋敷のようになっていた。
でもヒロの目には、やはり怖いと物というよりは、もっとなんというか不思議な感じに見えていた。
どう不思議かというとーー。
辺りは昔から住宅はあったが、最近さらに少し前まで畑や雑木林だった所を宅地造成して、新しい住宅を建てたので小綺麗な家ばかりだった。だから、まるで青野ババアの家と、周りの世界には見えない壁があるような感じがした。
青野ババアの家は、異界への入り口に感じた。
もしかしたら、あの家のドアの向こうには、別の世界があるのかも知れない?
勿論もう小六だから、そんな事が実際に無い事は分かっているが、ハウルの城の一場面みたいな事を想像してしまう。
そんな事を考えながら、ヒロは立ち止まり青野ババアの家の玄関ドアを見ていると、いきなり
ーーバンッ!!
とドアが開き、そこには今はもう居ない筈の青野ババアが立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!