エピローグ

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「え? どうして?」 「僕らは君の事を忘れてた。この世界に帰って来たのは数十年前だ。帰って来て直ぐは覚えてた筈なのに、あの世界の事をすっかり忘れてしまった。今年の8月31日に運ばれて来た君を見て、ハッとあの世界の事を思い出した。その後、医者である事を利用して病院の個人情報から皆んなを見付けた。恐る恐る皆んなに連絡を取った。そして、また集まった。皆んなに訊くと、同じく8月31日に、まるで誰かに頭の中に記憶を投げ込まれたみたいに、あの世界と君の事を思い出したと言う。優子も君を発見した時に、君の事を思い出した」 「どういう事?」   「僕らは、きっとあの世界の事をずっとは覚えてはいられないんだよ。覚えてちゃいけないんだ。君が最後に見たマダムを連れ去った子供達は、多分マダムが僕ら以外に他の土地で殺した子供だ。翠鷺市を離れてる間も、毎年子供を殺してたんだ。そして、マダムが最後に落ちた所は、ーー地獄だろう。優子のお母さんも、あの世界にヒロと同じに行ったのに、ヒロに会ってもあの世界の事もヒロの事も思い出してない。ーー誰かが裏で、僕らの記憶を手引きをしている」 「またマダムみたいな奴か?」 「ーーいや、違うよ。きっとこの世界には神様が居て、世界を変える事を許さないんだ。だから、マダムはああなった。あの世界に、君が来たのも、優子のお母さんが来たのも、マダムが来たのも、偶然ではないのかもしれない。世界を正常に戻す為に、仕組まれた事なのかもしれない。だからきっと、あの世界での事を僕らは覚えては居られないんだ。また世界を変える切っ掛けになる可能性は拭えない。今回、君やあの世界での事を思い出したのは、世界を元に戻した事に対するご褒美なのだろう。一瞬だけサニーズの再結成を神様が許してくれたんだ。また、明日になれば皆んなの事を忘れてしまうと思う。だから、皆んな揃って会える時まで、ヒロには秘密にしてたんだ。どういう切っ掛けで、また記憶が封印されてしまうか分からないからね。ーー我慢しきれずに皆んな見舞いを装って、顔を見に行ったけど」 真司は笑った。 「そんな……。せっかくまた皆んなに会えたのに」 光太が言う。 「だから、俺はアスレチックにサ二ーズの名前を彫った。忘れてしまっても、この世界の何処かにサニーズの居た証を残して置けるように。ノートに書き留めたりなんかしたら、また何かヤバイ事が起きそうだけど、サニーズの名前くらいは残して置いても良いだろう?」 『サニーズよ永遠に!』と彫ったのは光太だった。 優子が続ける。 「今日で、こんな風に皆んなに会えるのは最後になるだろうけど、この世界で頑張って生きていこう! ヒロが来たおかげで、もう一度人生を歩める。あの世界での事を思い出して、今は生きてる事だけで嬉しい気持ちよ。最後にもう一度皆んなで円陣を組もうよ! 教会に乗り込む前みたいにさ!」 「おう!」 「ああ」 「そうだな」 「うん」 「うん」 「……ヒロも」 「うん。でも、頭で忘れてしまっても、それでも皆んなの事はきっと心のどこかでずっと覚えているよ。明日からは皆んな別々の道を進むとしても、サニーズは永遠に不滅だ!」 それから、アスレチックの上に皆で登り、サニーズ最後の円陣を組んだ。 終わり
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