翌々日の新しい8月31日

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ーーその後、今日が終わるまでの間、神余と皆んなでこの状況を考察した。 今日が終われば、人が死んだ分世界は変わるが、騒ぎはリセットされる。 今逃げ戦っている皆んなの中にあるヘッズの記憶も消える。 そうなれば、一先ずは収束する。 「ーー多分、今まで俺にはヘッズが見えてなくて、いきなり今日お前らに会った事で、見え始めたんじゃないだろう?」 神余は言う。 「え? どういう事?」 「多分、この8月31日にだけ、アイツは存在するんだ。だから、昨日までの俺にアイツを見た記憶がない。そして、明日にもう一度来る8月31日の俺はヘッズの記憶もお前らの記憶も消えてるんだろう。じゃあ、9月1日の俺は何なんだ?」 「僕は別の時間軸に進んでると思ってます」 真司が言う。 そして続ける。 「今の時間軸の8月31日から、別の時間軸の8月31日に、平行に飛んでるんじゃないかと思います」 「なるほど、パラレルワールドって奴か。じゃあ、そうなると、この時間軸に残る俺には、お前らの記憶が残り、この惨劇も惨劇のままという場合もある訳かーー」 「あくまでパラレルワールドは推測で、9月1日に行った神余さんにしか、その事は分かりません」 「お前らとヘッズは、8月31日に残るのか? それとも、お前達だけか? 俺の行く、9月1日にもヘッズが居る可能性があるのか……。お前達の行く場所に現れるんだから、一緒に移動してると考えるべきか? 訳が分からないなーー。まあ、どちらにせよ、俺だけはその答えを数時間後には知れる訳だが。複雑な気持ちだぜ……」 「この世界から抜け出れたら、僕達もヘッズから逃げられるの?」 将希が訊いた。 神余は少し考え口を開く。 「どうなんだろうな? お前らが、パラレルワールドを並行移動してた場合は、9月1日に行けば逃げるれるかも知れない。ただ、ヘッズが過去に残ってそこで誰かをまた殺した場合は、お前らの要る9月1日か変わるかも知らないぞ?」 「でも、ヘッズが見えるのは俺達だけだし。俺達がいない8月31日なら、ヘッズは誰も殺せないんじゃ無いかな?」 ヒロは言う。 「いや、そうとも限らない。俺にも見えた。俺と同じような能力者には見える筈だ」 「そうか……」 「まあお前らがパラレルワールドを移動してるのかも分からないけどな。この世界が、現実とは別の特殊な世界の場合もある。それなら、この世界から抜け出れたら、ヘッズから逃れられる可能性もある。だがそうなると、この世界の住人である自分の存在が、どうなんだ? って話にもなるから、個人的には複雑だがーー。でも、1年に1回は必ず8月31日が来る訳だろ。その日にアイツが誰かを殺したら、世界は変わり、皆んなその事を忘れて9月1日を生きて行くのだとしたら? お前らに、誰かが、アイツを倒せと言ってるんじゃないのか? 選ばれたんじゃねーの? 選ばれし勇者なんじゃねーの! ガキの頃、そういうの憧れたわ!!」 「えっ?」 今まで最悪のどん底だったのに、いきなり勇者に持ち上げられ、ヒロは変な気持ちがした。 「じゃあ、お前らに名前を付けなきゃな?」 そんなヒロにはお構い無しに、神余は言う。 「名前?」 「チーム名だよ! そういうヒーロー達にはチーム名が要るだろう! そうだな? お前らの名前は、サニーズだ!!」 「はぁっ!? それ、スーパーの名前じゃん!! 嫌だよ!! そんな名じゃ勝てる気がしない!! しかも、神余さん以外ほとんど関わり無いし」 「じゃあ、スーパーサニーズだな! 強そうだ。超サイヤ人みたいだ」 「まんまじゃん!! 余計酷いよ!! 人の話聞いてる?」 「ーー俺は明日になれば、お前達の事を忘れちまうんだろう?」  神余は急に真面目な顔をして言う。 そして 「もし俺の力が必要だったら、俺の小説のタイトル『夏のケモノ』の名を言え」 「え?」 「夏のケモノは昨日、バイトに行く前に書き始めた物だ。知ってるのは、俺とお前らだけだ。毎日繰り返される8月31日が丸々同じでなくとも、8月30日までは同じなのだろう? なら忘れる事はない筈だ。合言葉みたいなもんさ。俺が8人目のサニーズだぜ!」 「……分かったけど。サニーズに決定なの?」 「そうだ。サニーズだ! ーーただ、もう一つ嫌な可能性もある!!」 「え? 何!? いきなり!!」 「此処は8月31日までしか無い世界って事さ」 「ーー? そうだよ。分かってるよ。8月31日しかない世界だよ」 「違うよ。しか、じゃないく、8月31日、まで、さーー。つまり、9月1日は無い。次の日に行くという事は、そのまま世界の消滅を意味するのかも知れない。8月31日までの事は皆んな知ってるが、その先は分からない。明日の事が分からないのは当たりまえだし、必ず明日はあると思ってるから、皆んななんの恐怖も抱いてないけど。明日がある確証は、今日の時点では無い訳だ。それってスゲー怖い事だぜ。本当はさ。お前ら7人だけ、ずっとその崖の手前に残ってるかも知れないって事さ」 「……それって」 「まあ、可能性の話だ。ただ、その可能性よりは確かに、お前らがこの世界の行く末に関係してる可能性はあるぜ? サニーズ!」
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