唐紅の羽衣。

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素敵な笑顔で、私を真っ赤な顔で見つめて、彼は言った。 「こんなに美しい女性に出逢った事はない」 私は、躊躇う事なく微笑んであげた。 『私も貴方の様に綺麗な人間は初めて見たわ』 淡い色の着物は、私の白く長い手足に良く映える。 紅色の羽衣は、私を情熱的に染めあげる。 「あぁ、天使様。異国の衣装の美しい天使様」 金髪碧眼の美しい男。 まるで絵本の中から飛び出してきたみたい。 理想的な王子様。 そんな美しい男に好意を寄せられて、嫌な気分になるものですか。 「すみません。水浴びをしていたものですから……」 『良いのよ』 腰まで湖に浸かった男の傍に行き、私は完璧に微笑んだ。 『貴方の望みは?』 湖に立って、私は王子様の顔を両手で包んだ。 王子様は照ながら、精一杯の冷静さを保ち、私を見つめた。 「貴方が欲しい」 私は妖しく微笑み、王子に深い口づけを。 照ながらも、王子はそれに直ぐに応えた。 こうして、王子様と美しい天女は幸せに暮らしました、 なんてね。 そんな幸せな御伽話は絵本や物語の中だけ。 寂しくて、詰まらない。 出会わなければ良かった。 この美しい王子様にも、――情けない、弱々しいこの男にも。  
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