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第一部 第1話 ミョック財閥本部集落・ルンドゥン
神聖暦3501年1月。
世界を二分する巨大企業のひとつ・ミョック財閥の本部オフィスを抱えるルンドゥン集落(人口5432体)では今、B級バイオロイドたちが忙しなく動いている。
「準備はもうできましたか~?」
「あと数時間で、産まれますよ~!」
「え~と...濡れタオルにおくるみに...」
「サンチュ総裁様は、出産時点で10歳で...」
その様子を30代半ばほどの、「すーつ」と「ねくたい」というもう何万年も前に廃れた装束を纏った男が見守る。
「...そろそろか...。これで私の5年間の管財人としての役目は終わって、ミョック財閥の全ての権限はサンチュ総裁に移行するのだな」
「マルコギ支店長さ~ん!先代の子宮が蠕動してま~す!もうそろそろサンチュ様が出生されますから、”管財権限終了”の手続きを行ってくださ~い!」
おでこにコードナンバーを入れ墨されたB級バイオロイドの一体が、その男に呼びかけた。
「そうか...。では、私も自分のオフィスに戻ろう」
マルコギ支店長と呼ばれた「すーつ」姿の男は巨大な肉塊(先代の「サンチュ総裁」が身体の80%を子宮に変化させた姿)がガラス越しに見える分娩室から立ち去り、自身が普段仕事をしているオフィスに戻る。
そしてガラスの向こうに吊るされた肉塊は、その後もゆっくりと蠕動を続ける。その様子を見ながら、B級バイオロイドたちが自身に与えられた役割(破水して床に流れた羊水の拭き取り・「先代サンチュ総裁」から分娩される「当代サンチュ総裁」の頭部を受けるために、性器の下にスタンバイする・出産後に総裁の身体を拭くためのタオルを濡らすetc)をテキパキこなし、あるいはそれらの準備をする。
肉塊が蠕動を始めて約3時間後...。
ずるり
「いよいよサンチュ総裁様がお目見えしますよ~!」
肉塊の下に陣取っていたB級バイオロイドが声をかける。
「「「「「「「「はぁ~~~~~~~~い!!!!!!!!」」」」」」」」
おでこに入れ墨されたコードナンバー以外に、外見上は全く見分けのつかないB級バイオロイドたちが応える。
ずるり
肉塊の下から頭部が見えてくる。どうやら今回も安産らしい。
「いよいよ全身が見えてきますよ~!みんな~!準備はいいですか~?」
「へその緒切り用メス準備OKで~す!」
「濡れタオルの準備できました~!」
「おくるみ、用意できてま~す!」
頭部の次に、腕・胴体が見えて、最後に足が見えてくる。
ずるり
「先代サンチュ総裁」は、無事に出産を果たした。
そして「当代サンチュ総裁」の身体を受け止めたB級バイオロイドのみならず、その場にいた者たち全員が安堵して、皆で当代を心の中で祝福する。
かはっ!はぁっ...はぁっ...
つい先ほど産まれ落ち、湯気に包まれている「当代サンチュ総裁」は、肩で息をする。そしてその身体は、数体のB級バイオロイドたちによって丁寧に濡れタオルで羊水を拭われ、へその緒を切られ、おくるみに包まれる。
「「「「「「「「第66代ミョック財閥総裁・サンチュ様!生誕おめでとうございま~~~~~~~~す!!!!!!!!」」」」」」」」
では、この時にサンチュ総裁自身はどう思っていたのかを見てみよう。
(...毎度のこととはいえ、出産というものはどうも慣れませんね。特に外界に出て初めて息を吐いて、肺に空気を入れる時など...。まだ目も開かぬ状態ですが、私はおくるみに包まれて、ベビールームへと移動させられているようですね。目が開いて、最初に見るのは65年前に先代の”私”が使用していた部屋の光景か、それともあのマヌケを絵に描いたようなB級バイオロイド連中の顔なのですかね...?)
B級バイオロイドたちの顔を「マヌケを絵に描いたような」と思われているのも知らずに、出産に関与した者たちはおくるみに包んだ総裁をベッドに載せてベビールームへと向かう。
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