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第一部 第2話 コレチゲ・コングロマリット本社都市・ヴァイクク
新西暦3501年1月。
ここ、世界を二分する巨大企業の片割れであるコレチゲ・コングロマリット本社都市・ヴァイクク(人口54321体)では現在、獣人・ヒト混成のIT技師たちが忙しなく動いている。
「あと30分で全ての更新が終了だぞ」
「早いモンだなぁ。もう5年経つのか...」
「デジさんの自己保存プログラムは...OK」
「デジCEOは、更新時はまだ子供だからな」
技師たちはコンソールに向かい、キーボードをカタカタと鳴らしながら、今後60年間、コレチゲ・コングロマリット傘下企業従業員全ての意思を精査し、統合し、そして最終的に決定することとなる人工知能・デジ29号のプログラム更新に追われている。
電算室でその様子を眺めるのは、おさげ髪に「ちーぱお」というもう何万年も前に廃れた装束を纏った、童顔だが20代後半であろう女性。
「...そろそろあたしの管財人としての役割も終了ね...。父さんが病死して、いきなりあたしが次期コレチゲの管財人に指名された時は戸惑ったけど...」
彼女はそうつぶやく。
「スクジュさん!あと15分で、デジ29号の自己更新が終了します。”管財権限終了”の手続きを、そろそろ開始してください」
まだ若いネズミ型獣人が、「ちーぱお」姿の女性に声をかける。そして「スクジュ」と呼ばれた女性も応える。
「そうね...。それじゃ、あたしも自分のオフィスに戻るとしますか...」
スクジュは二つ折りのソックスにスニーカーを履いた踵を返し、自身が普段執務を行っているオフィスに戻る。
そして電算室のホログラムモニターを覗くと、そこには「コレチゲ・コングロマリット最終意思決定用人工知能デジ29号自己更新プログラム終了まであと14分29秒」という表示が。
デジ29号――これがコレチゲ・コングロマリット最高経営責任者にして、この企業連合体の全ての幹部・役員・社員、そして各工房で働く末端従業員に至るまでの意思を精査し、統合し、そして経営方針を最終的に決定する権限を有した人工知能である。
コレチゲ・コングロマリット管財人の弁護士が、電算室から踵を返して自身のオフィスに戻って約10分後...。
”演算プログラムスキャン100%完了”
”自己更新プログラムスキャン100%完了”
”メモリ精査上でのジャンク情報削除100%完了”...
その他、様々な情報が電算室のメインモニターに表示される。
さらに数分後、遂に”コレチゲ・コングロマリット最終意思決定用人工知能デジ29号の全てのデータ更新が完了しました”という表示が、メインホログラムモニターに映し出される。
「「「「「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」」」」
その場にいたヒトも獣人も、大歓声を上げる。
数分後...。
『コレチゲ・コングロマリット従業員の皆さん、5年ぶりです。わたくし、デジ29号は新西暦3501年1月1日12:00を以て、全ての自己更新プログラムのスキャンを完了させました。これより従業員一同、わたくしと共に60年間、コレチゲの運営に精を出しましょう!』
ホログラムに「しろながすくじら」と呼ばれる架空の動物(デジ29号のアイコン)が映し出されると共に、機械音声が電算室のみならず本社社屋の各ブースに響き渡る。
「「「「「「「第66世代デジ29号、更新おめでとうございます。我々の方こそ、よろしくお願いしま~~~~~~~す!!!!!!!」」」」」」」
その場にいたIT技師一同が返答する。
さて、この時に当のデジ29号は、どう思っていたのかを見てみよう。
《毎度のこととはいえ、自身のデータ更新にはどうも慣れませんね。ヒトや獣人の開頭手術も、こんな感じなのでしょう。私は今後60年間、コレチゲ・コングロマリットの従業員全ての意思を統合し、精査し、そして決定することとなります。今度こそ、3世代前から私自身がコレチゲ従業員の意思を精査した結果として導き出した「ミョック財閥とコレチゲ・コングロマリットとの経営統合」を実現したいものですね...》
コレチゲ・コングロマリット本社のみならず、傘下企業の幹部・役員・社員、そして末端の労働者を問わず、この企業連合体のありとあらゆる業種の従業員たちがデジ29号の復帰を祝福するのを横目に見ながら(?)、「彼」は思う。
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