第一部 第3話 管財人・マルコギ支店長

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第一部 第3話 管財人・マルコギ支店長

 先代サンチュ総裁が、現サンチュ総裁を自己再生して半月後。      りんごんりんごんりんごんりんごんりんご~ん♬   けたたましい音を立てて、マルコギ支店長の出張オフィスのある部屋のチャイムが鳴る。チャイムを切ると、付属のモニターにB級バイオロイドの顔が映し出される。 「私だ。B級バイオロイドのようだが、何か用かね?」 『事務用個体のカム11号で~す!サンチュ総裁様の目がすっかり開いて首も()わりましたので、マルコギ支店長様にご面会したいのだそうで~す』  モニター越しに、B級バイオロイドがのたまう。 「そうなのか...。では、入らせたまえ」  支店長はオフィスの自動ドアの開閉ボタンを押して、外の三体を部屋の中へ通す。そして「しゃるわーる」姿の少女二体と、ツインテールに眼鏡をかけた、黒シャツに水色ミニスカート姿の少女の計三体が支店長のオフィスへと入室する。ちなみに「ツインテールと眼鏡の少女」は車イスに乗せられている。 「お久しぶりですな、ミョック財閥総裁・サンチュさん。(もっと)も、5年前にお会いした際は、貴方もしわくちゃのお婆さんでしたが...」    マルコギ支店長は、ツインテールに眼鏡をかけた10歳位の少女に対し、それこそ「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」な感を丸出しにして挨拶(あいさつ)をする。 「こちらこそお久しぶりですね、わがミョック財閥管財人にして、コレチゲ・コングロマリット傘下のパレスベラ銀行ルンドゥン支店支店長のマルコギさん」    ツインテールに眼鏡の少女――世界を二分する巨大企業(メガコーポ)・ミョック財閥の全ての権限を握るサンチュ総裁――もまた「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」と一目で判る態度でマルコギ支店長に挨拶(あいさつ)をする。その様子は、お互いの目から火花を飛ばしあっているようでもあった。    3000年以上前に「惑星安全評議会」が決定した事項のひとつとして「世界を二分する巨大企業(メガコーポ)・ミョックとコレチゲの管財人は、互いの傘下企業の従業員から選抜すること」という条項がある。つまり、ミョック財閥の管財人はコレチゲ・コングロマリットを構成する企業の社員から、一方、コレチゲ・コングロマリットの管財人はミョック財閥の関係者から選ばなければならないのである。 「貴方からの報告書には目を通しました。財産管理権限の私への移行完了・ミョック財閥のこの5年間の総資産は10%減少・但し、先代の”私”の遺言によりコレチゲ・コングロマリット傘下のパンケーキ用機械製作工房にわが財閥が投資した結果として、私自身のコレチゲ関連資産の価値は5%上昇...」    サンチュ総裁はB級バイオロイドの秘書・カム11号から手渡された書類を読み上げる。そしてカム11号は、同伴した給仕用B級バイオロイド個体であるキュル10号とお喋りをする。 「ねえ、給仕のお仕事ってどんなことをするの?」 「う~ん...そうね、サンチュ総裁様のためにお茶の準備をしたり、お食事を作ったり...。で、秘書のお仕事はどんな風にしているの?」 「こっちは書類の作成だとか、電話応対だとか...」    サンチュ総裁は、3000年以上に亘り自己再生を繰り返しながらミョック財閥の経営者として君臨してきた。  仮に総裁が自己再生を果たせぬまま死亡した場合、彼女の親族(サンチュ総裁自身が成長後に出産した子ども・その孫etc)により、財閥の後継者を巡る血で血を洗う抗争が勃発しかねない。そしてその隙を狙って、ミョック財閥の全ての株式・不動産・労働力etcがコレチゲ・コングロマリットの従業員に買い占められることも考えられる。  故に、そうはならぬよう親族一同は協定を結び、サンチュ総裁が”死亡”しないように取り計らっているのである。  
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