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そして翌日。
「あんたがこの財閥の総裁なのかい?まだ俺よりもチビっ子じゃないか」
この日、サンチュ総裁のオフィスに出向いた少年・スンデは、世界を二分する巨大企業の総裁を前にしても物怖じせずに、気さくな感を以て彼女に話かける。
『スンデさん、貴方巨大企業の総裁の前で無礼な態度を...』
傍らにいたずんぐりとしたメカが、彼を窘める。
「まあ、そう固いことはおっしゃらずともよいでしょう。それで、貴方があのコングロマリットにテロを仕掛けるための工作員に、応募してくださったのですね」
「そう!俺は〈セムス総合貿易商会〉社長のスンデ。こっちのメカは、孤児だった俺を育ててくれたイラブー11号っていうんだ。まあ、俺の交易商人としての先生でもあるんだけどな」
「セムス総合貿易商会...?聞いたこともありませんね。カム9号さん、データ照合を」
「はいな!」
事務用B級バイオロイド個体が、ポータブル総合データ検索機で照合する。
「出ました!確かに、セムス総合貿易商会はミョック財閥傘下企業のひとつとして登録されてますよ。でも、その株式ランキングは999位。総裁様が聞いたことがないのも無理はありませんね~」
「まあとにかく、俺はこのチラシを見て、半年前に応募したってわけよ」
スンデはそう言うと、デスクの上に1枚のチラシをはらりと置く。そのチラシには、こんな文言が。
コレチゲ・コングロマリットの本社機能を麻痺させるための工作員募集!
現在、地球ではミョック財閥と、我々と対峙するコレチゲ・コングロマリットという二つの巨大企業がこの星の覇権をかけて鎬を削っています。
コレチゲ側は「惑星安全評議会の決定事項により第一次産業・第二次産業を受け持つ企業連合体は共存し、互いに牽制しあうべし」と主張します。
しかし!
「惑星安全評議会」なる組織は、これまでの3000年以上もの間、只の一度もその姿を現してはいません。
つまり、「惑星安全評議会」という組織はミョック財閥の株式・不動産・特許・技術、そして労働力を奪取するためにコレチゲが捏造した架空の組織であり、そのありもしない組織をちらつかせるかのコングロマリットは、わが財閥の従業員にとり最大の脅威たり得るのです!
コレチゲ・コングロマリットがミョック財閥の解体に乗り出した場合、我々ミョック財閥傘下の全集落総勢約600万体が、かのコングロマリットの下で強制労働をさせられかねません!
そこで、我々にとり最大の脅威たるコレチゲ・コングロマリットの本社機能を麻痺させ(物理的・電子的は不問)、ミョック財閥をこの地球の唯一の支配者とするための工作員を募集します!
貴方もミョック財閥の歴史に、その名を刻んでみませんか?
成功報酬:1億MCr
資格:データ取扱責任者1級
サバイバル術検定1級
危険物取扱責任者資格1級
工作機械取扱検定1級
※コレチゲ・コングロマリット本社都市ヴァイククへの旅費・生活費は財閥側が支給します。
「俺はセンへレン村に玩具と食品を輸出する途中、たまたま泊まった簡易宿泊所で、このチラシを貰ったんだ。それで、コイツを見た途端にピン!と来たんだよね。『こりゃちょうどいい。工作員の任を受けて、成功すりゃ俺の事業も大幅に拡大できるぞ』ってね」
「しかし、商人如きに果たして工作員の真似事が務まりますかね?」
サンチュ総裁は訝し気に、スンデというお子様交易商人に問う。
「おっと、バカにすんなよな。”交易商人”ってのは世界中に旅をする。俺も幾つかのコレチゲの工房都市に顔が利くんだ。だから、ヴァイククにも俺が破壊工作員だってことがバレずに潜入できる。何ならあそこの社員を買収して、協力者に仕立て上げるのもお手の物だぜ。というわけで、コレチゲの従業員を買収するために、旅費・生活費の他に...そうだな、あと500万MCrを支給してほしい」
「...う~むむ...。仕方がありませんね...。私もコレチゲを叩き潰すためならば、カネは惜しみません。要求通り、500万MCrを支給しましょう!」
サンチュ総裁は、不承不承ながら決断する。
「うぉっ!ヤッタ~!!それじゃ、出発の日は一週間後にしようぜ!!」
というわけで、交易商人・スンデはコレチゲ・コングロマリット本社都市ヴァイククへと向かう旅費・交通費の他に、500万MCrをもゲットして、一週間後を待つこととなった。
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